クライアントが描くイメージや思いをもっともいい形で具現化し、ブランドイメージやその企業らしさをビジュアルによって表現する。数々の商品やブランドのパッケージを手がけてきた粟辻デザイン代表・粟辻美早さんにブランディングにおけるパッケージの役割について聞いた。
粟辻美早(あわつじ・みさ)
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。CRANBROOK ACADEMY OF ART デザイン科にて修士号取得後、八木保氏に師事。帰国後、株式会社粟辻デザイン設立。ショップ等のブランディングデザインの他、パッケージ、エディトリアルなど、グラフィックデザインを中心に幅広く活動。女子美術大学教授。JAGDA会員。日本タイポグラフィー協会会員。
みんなが幸せにならないと売れない
クライアントが持つ商品のイメージを具現化していくなかで、いくつかパッケージデザインを提案していくわけですが、決してやってはならないのが一人で突っ走ってしまうことです。リレー競争のバトンのようにチームワークで手から手へ丁寧につないでいくのが肝心で、クライアントとの話し合いはとても重要です。デザインに関しては専門家でも、対象商品やブランド、市場動向については専門家ではないのでクライアントからヒアリングしたり、市場調査したりすることで情報を共有していきます。その過程でターゲットである消費者が求めているニーズが徐々に輪郭を帯びてきます。
私たちが意識しているのは、みんなが幸せにならないと売れていかないということ。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの考えに近いです。クライアントからバトンを受け取ったら、きちんと消費者につなぐ。デザイナーはアンカーではなく、前の走者からアンカーへつなぐ中間ランナーなのです。
私たちの事務所は世の中を動かそうという大それた野望はなく、ごく普通の生活に訪れるほんの少しの驚きや小さな幸せをデザインの力で手伝っていきたいと考えています。どんな依頼が来ても自分たちが心からほしいと思うものを作る。デザイナーの立場と消費者としての買う立場。この2つの視点を大切にしています。
事務所は私と妹を中心に、現在7名のスタッフで構成されています。仕事の大まかな流れは、インテリアデザイン出身の妹がクライアントの課題や要望を整理して、イメージをスケッチやキーワードで並べていきます。それをベースにしながら私やスタッフが一つずつ組み立ててデザインに起こしていくという流れがほとんどです。育ってきた環境が同じためか ...