広島県・宮島で大正14年の創業以来、もみじ饅頭を作り続けている老舗「藤い屋」。90年の伝統を持つ、あんをよりおいしく提供したいとの思いで、新ブランド「古今果」を立ち上げた。トータルでブランディングを手がけたのは、アートディレクターの左合ひとみさんだ。
変わらないために変わる
宮島の水を使い、小豆の皮を丁寧にむいて炊く藤色のこしあんを入れたもみじ饅頭。厳選した素材と職人の技でつくる藤い屋の味は、地元民からの評価がとても高い。しかし、饅頭を包装するパッケージに統一感がなく、新規の顧客や観光客にいま一つ魅力が伝わりにくそうなデザインだった。アートディレクターの左合ひとみさんに依頼が来たのは、2008年の夏だった。
「伝統産業全般に言えることですが、伝統を未来へ残すためには守るだけではなく、変わらなければならないと考えます。これからも多くの人に藤い屋の味を届けるためには、今の時代に少し歩み寄る必要がありました。そこで、ブランドコンセプトを“変わらないために変わる”と定めました」。左合さんはヒアリングを重ね、ブランドの世界観を表現するために手提げ袋や包装紙、詰め合わせ箱などにキービジュアルとして“流水紋”を取り入れた。流水に紅葉の紋様は、「あらし吹く 三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり」と百人一首の歌にも詠まれた伝統的な紋様。絶えることなく流れる水を描いた流水紋は、未来永劫を意味する縁起の良い紋様でもある。また、もみじ饅頭が「少女の手」を見て生まれたと伝えられるように、紅葉は手を連想させる。「両家が末永く手に手をとって、仲睦まじく」という意味を現代的にアレンジすることで …