クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第80回目は、校閲会社・鴎来堂代表で、神楽坂『かもめブックス』店主でもある柳下恭平さんに、自分の仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
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『Lonely Planet』
(Lonely Planet Publications)
この本はふたつのものを僕にくれた。まず旅の喜びと、そして旅の孤独を。
二十代の前半を、ひたすらに世界を見て歩いた僕は、ガイドとして、各国でこの本を手にした。シンプルな英語で書かれた情報は、僕の拙い語彙を補ってくれて、自分が賢くなったように錯覚させてくれたし、それは随分と勇気になった。
世界は「本に書かれたこと」と「本に書かれていないこと」から構成されているけれども、僕はこの本でそれを知る。
それは、もう、二〇年近くも昔のこと。インターネットが世界の隅々をほじくり出す以前の世界は、情報もなんだか大らかで、今とは違う表情があった気がする。愛惜や懐古ではなく、唯々、世界は違って見えた。もちろんどちらがよい、というものではない。
僕がこの本(そして旅。我が愛しのバックパックの日々)から学んだことは、自分で見たものしか信じないという、当たり前の原則と、言葉も常識も通じない世界で感じた、強い孤独に負けない自己の確保だった。
まったく、信じられないけれども、こうして文章を読んでいる今も、この惑星は孤独に回転を続けている。それを思えば、大抵のことは驚くに価しない。
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雑誌『ログイン』
(エンターブレイン)
1980年代の後半から90年代の初期、コンピュータゲーム誌のはずだった、この雑誌は、なぜか、サブカルチャー色が強く、古いガロと並んで僕のクレイジーを加速させてくれた。
書籍が文明を残すものなら...