2015年、カンヌライオンズでフィルム部門にオンライン動画カテゴリが生まれ、日本でもACCがオンライン動画を募集するなど、テレビCMと並び、オンライン動画が映像クリエイティブの世界でもいよいよ主役級の存在感を持つようになってきました。その一方で、作り手としてどんなオンライン動画を評価すべきか?についてはまだ模索が続いている状況です。前回のBOVAの審査でも「動画らしいやんちゃさや遊び心が見られなくなり、動画が“ただ長いだけの広告”になっている」「再生回数ほしさに海外受けを狙った日本っぽい動画を作るのはどうなのか(本来のターゲットが置き去りにされていないか)」といった指摘がありました。
そこで、今回の青山デザイン会議は「BOVA特別編」として、日本のオンライン動画のこれからを審査員の皆さんに議論していただく場としました。動画に企業の予算が投じられるようになった今、オンライン動画はどう変化していくのか?テレビにはない、オンライン動画ならではの面白さとは?それを最大化する方法は?BOVAではどんなオンライン動画を評価していくのか?川村真司さん(PARTY)、木村健太郎さん(博報堂ケトル)、佐々木康晴さん(電通)、澤本嘉光さん(電通)と話し合います。
オンライン動画ならではの面白さって?
編集部 BOVAは今年第3回目の開催を迎えます。10月に課題が発表され、既に応募作品の構想を練っている方も多いのではないでしょうか。そこで今日は、12月1日からの作品応募受付に向けて、BOVA最終審査委員の方々に動画制作のポイントや審査の際の着眼点についてお話をうかがいます。本日参加できなかった齋藤精一さん(ライゾマティクス)、谷川英司さん(TOKYO)からのコメントも随時ご紹介していければと思います。さっそくですが、過去2回の審査でもたびたび議論に上がった「テレビCMとオンライン動画の違い」「オンライン動画ならではの面白さとは?」について、みなさんはどう考えられますか?
川村 確実に大きな違いが2つあると思います。まず「拡散力」。僕は普段ニューヨークに住んでいるのでよく実感するんですが、例えば前回のBOVAの広告主部門でグランプリだったサントリー「忍者女子高生」や、準グランプリの日清カップヌードル「SAMURAI IN BRAZIL」は、ニューヨークの知人たちも、いつの間にかオンラインで流れて来たものを面白がって見ています。国内外問わずに拡散する、とにかくたくさんの人に届きやすいメディアだということがよくわかります。そしてもう一つが「視聴環境の自由度」。テレビがお茶の間にセッティングされたものであったのに対して、オンライン動画はモバイルで持ち歩けます。「拡散力の差」と「視聴環境の自由度」。自分がオンライン動画を制作するとき、この2つはいつも意識しています。
佐々木 テレビCMとの違いについて僕がよく話すのは「距離感の違い」です。簡単に分けるとテレビはパブリックで、オンライン動画はプライベートですね。川村さんのおっしゃるように視聴環境は自由なので、電車の中や公共の場で視聴するケースもありますが、それでも、大勢で楽しむというよりは、イヤホンをつけて一人で見る人が大半でしょう。そこで何が変わるかというと、個人的なメディアで距離感が近いからこそ、テレビCMだったら白けてしまうような「イイ話」や「感動映像」が、ストレートに胸に響く可能性が高くなると思う。その距離感をうまく生かせば印象的なものができるのではないか?と考えて僕自身はやってきました。ただ、最近はYouTubeの動画をテレビのスクリーンで見られるようにもなっているので、そうなるともはや「距離感の違い」とは言い難い。ようはデバイスの違いなのかと、ちょっと悩んでいるところです。
木村 僕は現時点では、テレビCMは受動的なメディア、オンライン動画は視聴者主体の能動的なメディアだと分けて考えています。出稿量に応じて一定の視聴数が得られるテレビCMと違って、オンライン動画は、コンテンツとしての面白さがなければ、まず見てももらえません。当たり前のことですが、前提としてそこは押さえておきたいです。
澤本 色々な切り取り方ができる質問だけど、額面通りに棲み分けということで考えると、秒数の制限があるかないかだけだと思います。テレビCMには15秒、30秒、60秒という決まった時間の単位があるから、その枠の中でどう表現するかという、俳句的な技術が必要になる。オンライン動画ではそれがないけれど、つまらないものをダラダラ見せられたら逆効果になるから、尺の判断も含めた編集技術が必要になってきますよね。
川村 広告のオンライン動画というと、予算や労力のコストを含め「テレビCMのカジュアル版」のように思われることが、まだ多い気がします。でも僕も制作スタンスに垣根はなく、むしろ既存のCMのイメージを超えるような、新しい表現を追求しているつもりです。
澤本 僕も表現に関しては、テレビでもオンラインでもそう違いはないと思っています。広告である以上、目的はテレビでもオンラインでも同じく、「広告主のサービスもしくは商品のファンになってもらうこと」でしかないから。
「オンライン動画」を3つの機能で考える
編集部 前回の審査会では、「“ただ長いだけの広告”になってしまっている動画が増えていないか?」という危惧も出ていました。作り手は、何に注意すべきでしょうか?
木村 一口にオンライン動画と言っても、機能的には分化している。だから分けて考えるといいと思っているんです。広告としての動画は3つのカテゴリに大別できると思います。一つは「バイラルムービー」。インパクトの大きな映像で視聴者を惹きつけ、誘引の役割を持つもの。BOVAの受賞作で言うと、先ほどの「忍者女子高生」がそうでしょう。2つめは「エンタメコンテンツ」。例えば有名な映画監督のオリジナルムービーを配信するネスレ日本の「ネスレシアター」や、三井不動産レジデンシャルの「タイムスリップ!堀部安兵衛」が該当するかと。
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