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DM AWARD(PR)

コミュニケーションの基本にあるのは、 相手を喜ばせたいと思う気持ち

秋山具義

多くの人がスマホを手にし、そこでの情報収集が中心になっている昨今、「伝える」ことの意味や伝え方が変わってきている。いまの時代に人に確実に「伝える」ために、どんなコミュニケーションが必要なのか。広告を中心に、幅広い活動を続けるアートディレクター 秋山具義さんに聞いた。

秋山具義(あきやま・ぐぎ)
アートディレクター。デイリーフレッシュ代表。1966年秋葉原生まれ。90年日本大学芸術学部卒業。99年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、写真集、CDジャケット、グッズなど幅広い分野でアートディレクションを行う。主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、AKB48『さよならクロール』ジャケットデザイン、NHK BS プレミアム『ワラッチャオ!』キャラクターデザインなど。09年『ファストアイデア25』出版。

コミュニケーションツールとして
強いものを考える

――スマホ中心の現在、紙媒体としてのDMの優位性はどこにあると思いますか。

僕らの世代は版下制作から始めているので、紙に対するこだわりが強い。そのため、広告でも、パッケージでも、本のカバーでも、どちらの紙だったら心地いいだろうと、必ず紙のテクスチャや触り心地を考えます。でも、今の若いデザイナーの多くは基本的にMACでデザインしているせいか、ツルツルかザラザラかぐらいしか紙の違いを意識しないと聞いたことがあります。それは少し寂しいですね。僕が思う紙の良さ、つまりDMの良さは見た目もさることながら、「指触り」を実感できることだと思っているからです。メールやLINEと違って、触り心地のある実物が手元に届けられるというコミュニケーションの形は今の時代、ある意味、ぜいたくなものになったのかもしれないですね。

――秋山さんは独立したとき、ユニークな形の案内状を出されて話題を集めました。

01 秋山さんが独立の案内として送った牛乳パックのDM。

1999年に独立したときに立ち上げた会社の社名(デイリーフレッシュ=新鮮な牛乳という意味)にちなんで、牛乳パックの案内状をつくりました。オリジナルの牛乳パックをつくり、送付先住所のシールを貼って、中には挨拶状とTシャツとマグネットを入れました。ちょうど夏真っ盛りだったので、受け取った人は「えっ、真夏に牛乳が自分のデスクに放置されている…」と驚くという(笑)。それも僕なりのコミュニケーションツールのひとつと考え、企画したものです。

2010年から「グギシュラン」と題した年賀状をつくっています。タイトルはご存知『ミシュランガイド』にかけたもので、肉、ウニ、カレー、卵など1年ごとにテーマを決めて、実際に自分が食べておいしいと思ったお店とそのメニューを写真とテキストで紹介しています。年賀状は届くとうれしいのですが、届いたときにだけ見て、その後見返すことはほとんどありません。凝ったデザインにしたり、丁寧に筆文字で書いたり、いろいろな思いがこもっているのに、コミュニケーションツールとしてあまり有効な使われ方をされていなくて、もったいない。そう感じて何かできないかと考え、はじめたものです。

この年賀状では通常ハガキよりも大きなサイズに10軒以上のお店とメニューを紹介しています。毎年10月頃にテーマを決め、これまで行ったお店の写真を見て思い出したり、あらためて足を運んで写真を撮ったり。原稿もすべて自分で書いています。「グギシュラン」という年刊の本をまとめる編集長の気分です(笑)。皆さんが思っている以上に制作に時間がかかりますが、実際にそのお店に足を運んでくれる方や楽しみにしてくださる方がいるので、続けていこうと思っています。

――ご自身が手にして印象に残っているDMはありますか。

ARTS(アートディレクター養成講座)で、毎年DMの授業を担当しています。以前、「新発想残暑見舞い」という課題に対して、ハガキの真ん中を水色に塗って池に見立てて、そこに5円の白鳥の切手を10枚貼ったDMをつくった人がいました。涼しげで見ていて気持ちよくて、さらに全部で50円になるという切手を使ったアイデアが無駄なく面白く、とても印象に残っています。この授業では、自分でつくったDMを事前に僕の事務所まで郵送してもらうようにしています。教室で見るのではなく、それを受け取って、自分のデスクや手元で見たとき、どう感じるか。受け取った相手の気持ちをどう盛り上げられるか、デザインだけにとどまらないで、そこまで考えることが大事です。

年賀状にしても、ただ送ればいいというものではありません。本来は、相手のことを思って送るもの。そのときに大事なことは、印刷か手書きかということではなく、相手を喜ばせたいという気持ちがどれだけそこに込められているかということ。デジタル全盛の現代においては、シンプルなハガキであっても、手書きをすれば手間も時間もかかるし、エネルギーも使う。だからこそ、もらったほうはうれしいと感じるわけです。デザインや紙に凝ることもデザイナーとしてはもちろん大事ですが、何をつくるにしても、どうすれば相手が喜んでくれるか。そして見た人が楽しい気分になり、思わず他の人にも言いたくなるようなものって何だろうか。そのことは、どんな仕事においても常に考えています。

たとえば名刺。通常、名刺は一度つくると同じデザイン、同じ紙を使い続けますが、僕は名刺が切れるとこれまでとは違う紙を使うようにしています。しかも毎回、派手でキラキラした素材を選ぶ(笑)。これも受け取った人が「わー、凄い!」「前のものと違いますね」と言ってくれれば、それがコミュニケーションのきっかけになり、初めて会った人でも最初に壁をひとつ壊すことができます。

いまは何ごとにおいてもスピードが速い時代。紙媒体だから、ゆっくりでいいかというと、それも違う気がしています。特にDMのように目的があってつくられているものの場合、パッと見て、パッとわかる。そういうスピード感は、たとえ紙であっても必要です。いまの時代の中でこれはどうあるべきかと考え、ほんの少し手を加えるだけで、紙の媒体であっても面白いことができる可能性はまだまだあるはずです。

 

02 2010年から始まった「グギシュラン」。
お店や料理の紹介がすべて1つずつシールになっている。

 

「全日本DM大賞2016」応募締切近づく

戦略性・クリエイティブ・実施効果などにおいて優れたダイレクトメール(DM)を顕彰する「全日本DM大賞2016」がDM作品を募集中だ。応募締切は10月31日。表現面だけではなく、ほかのメディアとうまく組み合わせて相乗効果をもたらしたDM、レスポンス獲得など実施効果を収めたものなども評価する。

応募用紙や過去の作品集は公式サイト(http://www.dm-award.jp/)にてダウンロードできる。

●問い合わせ→ 03-3475-7668全日本DM大賞事務局(宣伝会議内)

「全日本DM大賞2015」贈賞式の様子。

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