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青山デザイン会議

地方創生コミュニケーションのヒント

上野達生×江副直樹×金子 暖

どうすれば地方は元気になる?人口減少が深刻な課題となっている今の日本において「地方創生」は重要なキーワードの一つ。各地方の行政や自治体とともにクリエイターもさまざまな形で協力し、取り組んでいます。国から国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)に選ばれている福岡市は、創業5年以内の企業の法人税を経済成長著しいシンガポール並みの17%以下に引き下げることを目指すなど、企業誘致に取り組み、地方創生を牽引する活動を続けています。また佐賀県では、「サガプライズ!」などユニークなシティプロモーションを展開するほか「-佐賀県総合計画2015- 人を大切に、世界に誇れる佐賀づくりプラン」を策定するなど地域資源の再認識の取り組みを行っています。

そこで今回の青山デザイン会議は地方創生のモデルケースとして九州地方に着目。特別編として、福岡・天神にて座談会を開きます。福岡県を拠点に活躍するクリエイティブディレクター上野達生さん、大分県在住のプロデューサー江副直樹さん、佐賀県危機管理・広報課の金子暖さんがデザインやコミュニケーションの力でどのように課題と向き合い、乗り越えてきたか。さまざまな事例とともに話し合います。

クリエイターとのコラボで
地域と伝統工芸を活性化する

上野 広告の仕事はコミュニケーションを技術として提供すること。広告クリエイターはコミュニケーションのスペシャリストです。だから裏方ではなくもっと表舞台に出てもいいのではないか。そう考えて、広告に従事する九州人が会社の壁を取り払って接点を持つ、「なんか野郎・九州」という団体を立ち上げました。九州のまちづくり推進を図るイベント開催や商品開発、コミュニケーションの仕組みづくりや人材育成などをしています。

江副 僕も広告業界にいて、30歳の頃はコピーライターでした。広告クリエイティブは、すでにあるモノを売るためにいろいろな知恵を出しますよね。コピーを書きはじめて5年ほど経った頃でしょうか。モノそのものの企画・開発に携わりたいという欲求がどんどん強くなり、40歳の頃にブンボという会社を設立したんです。コンセプト重視で戦略立案するプロデュース業をはじめ、現在に至っています。

金子 生まれは岐阜県ですが、佐賀県の情報発信による地方創生事業「サガプライズ!」のプロジェクトリーダーを担当しています。前職では東京のアパレルメーカーで異業種コラボレーションの企画を担当していました。その仕事を通して、地方の仕事はおもしろいと思うようになりました。当時、僕が担当するブランドの店舗が九州・佐賀県に多くあって、通っているうちに佐賀の魅力の虜に。ちょうどその頃、佐賀県が地域ブランディングの職種を募集していたので、2006年、佐賀県にIターンしました。2013年から出戻って佐賀県東京オフィスに勤務しています。

江副 九州の課題はどんなものがあるのでしょう?

上野 たとえば、地方の伝統工芸はどこも若者離れで跡継ぎがおらず、深刻な課題を抱えています。その解決には、まず伝統工芸を若者に知ってもらわなければいけません。もちろん広告を打つという方法もありますが、若者に浸透させるには、人気のブランドと伝統工芸をコラボレーションして、使ってもらい身近に感じてもらうのが有効だと考えました。実際、若者に人気の鞄ブランド・吉田カバンPORTERと組んで、沖縄の首里織とコラボした「琉球PORTER」や、「博多山笠PORTER」などを開発して、大きな反響を得ました。

江副 僕のプロデュースには大原則があって、最も大切なのは換金物、つまり商品だと考えます。商売がうまくいくにはお客さんにリピートしてもらわなければいけないから商品はいいモノでなければいけない。なので、いいモノがなければ作るし、あればそれを磨くというスタンスです。情報発信は声高に叫ぶのではなく感覚的に届けなければいけない。僕は、情報・商品・空間の3要素を色の三原則のように見立て、これらを同時に進めるんですが、それを総合デザインと呼んでます。3つの要素が重なった中心を貫くのがコンセプトです。最近は特に情報発信に注力しています。情報発信する前は、いろいろなことを整理しますよね。それがすごく有効。情報発信の準備をすることで期せずしてコンセプトワークが進みます。

金子 自治体の情報発信にはいろいろな方法がありますが、佐賀県のプロジェクト「サガプライズ!」は県内外とのコラボレーションで情報発信をしています。県内企業や団体などで一番多い課題は、江副さんが重要だと言われた情報発信でした。ただし「情報発信」というキーワードを使う人は少なくて、「いいモノを作っている自負はあるけれど、売れないんだよね」という言い方をされる。「とにかく知ってもらいたい」という思いがひしひしと伝わってくるけれど、なかなか打開策が見当たらないんです。

江副 どの県も同一の課題を抱えていますよね。

金子 はい。そこで企業やブランドとコラボして情報発信を行いながら、Win-Winに還元できるスキームを考えました。コラボすることでコミュニケーションのスキルやナレッジ、ファンとの経路や接点などの要素を手に入れるのです。具体的には、森永製菓さんと有田焼の窯元の香蘭社さんがコラボした「ハイクラウン東京」があります。東京駅を描いた有田焼の絵皿にチョコレートのハイクラウンをセットにした商品で、反響が大きかった。プロジェクトを取り組みはじめてまだ2年ですが、今も引き続きビジネスを展開されているコラボがその他にもいくつかあります。ポイントはメディアやSNSなどで話題に上らせることができるかどうか。情報発信が生命線です。それが一回きりで終わらないように継続していきたいんです。

江副 情報発信は必須です。最近「地域を元気にする人」と紹介されることがあるんですが、僕はその地域にある原石をクリエイティブで磨いているだけです。どの県もおそらく持っているけれど自分では気づきにくい。あとは情報発信に寄るところがほんとに大きいと思います。

コラボ成功の秘訣は
妥協なしのガチンコ真剣勝負

江副 冒頭に上野さんが広告クリエイティブはコミュニケーションの技術とおっしゃっていたけれど、僕も同じ意見です。そう捉えるといろんな可能性が生まれてきます。

上野 吉田カバンと多言語Webサイト・アジアンビートがコラボした「博多山笠PORTER」は、戦略的に継続性を狙って開発したコミュニケーションツールです。700年以上も伝統のある博多祇園山笠は、いまや世界中から観光客が集まるお祭に認知・発展しましたが、浴衣に山笠PORTERを持って祭見物すれば、その体験は一層すばらしいものになりますし、山笠の時に情報発信できますから、話題性は毎年継続していきます。

金子 私の役割はクリエイターと地元企業や産業を結び付けることなんです。それも県の委託事業ではなくコラボなので、方向性はプロデュースしますが、ディレクションはほとんどタッチしません。ただ、ディレクションするクリエイターには、絶対に妥協しないでほしいと必ず伝えます。コラボする相手にもブランドの世界観やコンセプトといった守るべきものがあり、譲れない事情もある。そういう時、仲良く折衷案を模索するのではなく、むしろ真剣勝負で対立構造のほうがいいと思いました。佐賀竹下製菓さんの人気アイス「ブラックモンブラン」のパッケージデザインを気に入ったBEAMSさんが …

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