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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

全米で注目度が高まるLGBT広告

楓セビル

02 キンドルのCM。
あるビーチの日光浴用ベンチに、たまたま隣り合わせに坐った美男と美女。2人の間にロマンスが生まれるかと思いきや、彼女には夫が、彼にも夫がいた!ちょっとひねりのあるゲイ・ターゲットの広告。

とあるビーチで、美男と美女が日光浴をしながら電子ブックを読んでいる。男性は読みにくいようで、時々本の位置を変えたり、タブレットの表面を拭ったり。「それ、キンドル?」と男性が女性に聞く。「キンドル・ホワイトペーパーよ。だから太陽の下でも問題なく読めるの」と女性。「やった!」と男性。怪訝そうな顔の女性。「いま、キンドルのホワイトペーパーをオンラインで注文したんだ。お祝いしよう!」と男性。「いま、私の主人がドリンクを持ってきてくれるわ」と女性。「僕も」と男性。そして2人はバーの方を振り返る。2人の男性(1人は女性の夫、1人は男性のパートナー)が、微笑みながら2人に手を振る。

LGBT広告、解禁に

キンドルのこのCMは、米国のテレビやYouTube他のオンラインのビデオサイトなどに頻出しているLGBT広告の一例である。LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略。今年の6月26日、米国連邦最高裁判所が下した「同性結婚に、伝統的な結婚と同じ権利を認める」という判決は、それまでLGBT消費者を対象にした広告や販促を控えていた広告主にとって、大手を降って関門を通れるパスポートをもらったようなものだった。時を同じくして、オリンピック選手ブルース・ジェンナーがトランスジェンダーである事実を認め、ケイタリン・ジェンナーに変わった事件も、普段はLGBTにあまり関心のない一般市民の興味をつのり、LGBTはその言葉も、コンセプトも、ライフスタイルもアメリカ文化の中に安住できることになった。こうした経緯から、LGBT広告がこの2、3カ月の間に、アメリカのメディアを席巻し始めている。「まるでストレートである方がおかしいような錯覚に陥る」と、元ストロベリーフロッグのクリエティブディレクター、ジェイソン・コックスボルトは笑いながら言う。彼は最近、英国女性と“伝統的な”結婚をしたばかりである。

LGBT広告に歴史がないわけではない。最高裁の決定以前にも、LGBT消費者に好意的な広告主は何社かあった。アップル、ナイキ、IKEA、アメリカン航空、オールステート、タイレノールなどがそうだ。ちなみに、IKEAは1993年、ゲイカップルが店内で台所用テーブルを物色しているビジュアルの広告を出稿し、店に爆弾をしかけるという脅迫を受け、やむなく広告を引き下げた。

LGBT 消費者の実態

しかし、こういった反発や反撃は皆無にならないまでも、今度の最高裁の決定で法律的に取り締まられる。そこで、旅行ビジネス、アルコール飲料、金融サービス、保険、自動車、エンターテインメント、医薬品、スキンケア、ファッションなどの業界が、一斉にこのグループに対する広告活動を開始している。それというのも、このグループは消費者として見た場合、かなり魅力的なグループだからだ。消費者セグメントとしての歴史が新しいだけに、実際の数字を把握するのは難しいとされている。最も信頼できる数字である米国国勢庁の2000年の調査結果によると、米国におけるLGBT世帯の数は65万8000。一方、13年に米国マーケティング協会が行った調査では、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの数は米国総人口の3.5%、トランスジェンダーは0.3%と報告している。企業コンサルタント ボブ・ウィテックは、LGBT人口は1600万人、その購買力は7900億ドルと推定している。加えて、彼/彼女の65%は大学卒、75%が職を持っており …

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