クリエイターたちは、今年のカンヌを振り返って、どのように感じたのか。カンヌはじめ海外広告賞の審査員経験も豊富な木村健太郎さん、古川裕也さん、レイ・イナモトさんの3名に語ってもらった。
キャンペーンから
社会課題解決のプラットフォームへ
――今年のカンヌライオンズからどんな潮流を感じましたか?
レイ ▶ 一つはテクノロジー系企業の台頭ですね。象徴的だと感じたのが、泊まっていたホテルの会議室が、LinkedIn、Mashable、Facebook、Oracleなど、テック系企業の予約で埋め尽くされていたことです。10年前はそれが全部エージェンシーでした。5 年位前から、ユニリーバやコカ・コーラ、マクドナルドなどのクライアントになり、今年はテック系に完全に塗り替わりました。
木村 ▶ その流れでいうと、受賞作がキャンペーンからプラットフォームへと移行してきていると僕は感じました。同じソーシャルグッドの課題でも、これまでは人に問題を気づかせるまでだったのが、ソリューションを作り上げ、実際に使える何かや仕組みにまで落とし込んだものが受賞しました。クライアントのブリーフ発でなく、作り手のアイデアがまずあり、作ってから広めていくような。プロダクトやテクノロジーが起点のものが多いと感じました。
古川 ▶ ブランドという観点からは、VOLVOの「Life Paint」が挙げられますね。すべての存在には、いい面と悪い面があります。「原罪」のように宿命的に。例えば車や飛行機であれば、便利と引き換えに事故が生まれるとか、ネットなら過度のいじめが出現するとか。VOLVOは以前から「世界中から交通事故をゼロにするのが我々のミッションだ」と言っているんですが、「Life Paint」はメッセージだけでなく、それを日常レベルで具現化している。すべての製品には善も悪も含まれているという前提から出発して、社会の中でブランドが為すべきことを考え、カタチにしている。それは、数少ない“意味のあるフォーグッド”だと思います。夜光るというアイデアは、ちょっと気の利いた町内会でもやりそうな感じだけれど(笑)。ブランドの本質に深く根差した貴重なソーシャルグッドだと思います。
木村 ▶ 確かに。考えてみれば、交通事故の問題に取り組むプレーヤーは、Googleや携帯キャリアのようなテクノロジー系企業でも、政府や地方自治体でも、どこでもいいわけですよね。誰がどう始めてもいいという中で、なぜVOLVOが取り組むのかが、見るべきポイントですね。本当にブリーフから始まらない仕事ばかりになりました。
レイ ▶ 「ブリーフ発ではないもの」と言われてすぐに思い浮かぶのは、昨年、大きなムーブメントを巻き起こしたアイスバケツチャレンジ。身内にALS(筋萎縮性側索硬化症)患者を持つ人が草の根的に始めた活動があそこまで爆発的な広がりを見せました。広告業界以外の人たちも普通に知っていることを考えると、本当にすごいことだと思います。何千という応募作の中から賞を獲るのも大変なことですが、「Life Paint」が今後、どれだけ本当に使われるかという点は注目したいですね。
木村 ▶ 僕が初めてカンヌライオンズに参加したのは約10年前の2004年で、その頃のカンヌは「アイデアの品評会」でした。でも、だんだん「ソリューションの品評会」、つまりいかに課題を解決したか、ワークしたかに重きを置くようになっていてきていますよね。いいことだと思いますが、今年は“イシューの大きさ”で比べているような感じもあって、まるで「ソーシャルグッドのエフィー賞」だと思ったのも確かです。
古川 ▶ テーマがソーシャルグッドであることがアイデアより評価されている傾向もありました。結果として「正しくてつまらないもの」が上位に来ていた。アイデアを最優先することを捨ててしまったら、カンヌなんてまったく意味がないと思います。
新設「グラスライオン」をどう見るか?
広告界にもダイバーシティの波
木村 ▶ 昨年チタニウムの審査員をしたとき、“人類共通の5大イシュー”として、ジェンダーや偏見、戦争や犯罪、病気や身体障害、貧困や格差、環境が挙げられていました。そのときも …