今年のカンヌで押さえておくべきトピックスは何か。新設部門や話題を呼んだセミナーなどについて紹介する。
2つの新設部門
グラス部門とクリエイティブデータ部門
ここ数年、毎年のように部門を増やし、拡張を続けているカンヌ。今年も新たな部門が設置された。一つは、グラスライオン。性差別や偏見を抑止するクリエイティブを顕彰するための部門である。もう一つはクリエイティブデータ部門。近年あらゆる領域で活用の叫ばれるデータを使ったクリエイティブを表彰する部門だ。
また、今年は新たなアワードも立ち上がった。昨年カンヌではカンヌライオンズから独立したアワードとして「ライオンズヘルス」を設立したが、同様にクリエイティブデータ部門とイノベーション部門が独立して「イノベーションライオン」になった。近年CESやSXSWなどテック系のイベントが注目を集め、マーケターが足を運ぶようになっている。カンヌもこの分野の強化に乗り出した。イノベーション部門の審査では、テック系イベントに見られるような公開審査方式(審査員の目の前でプレゼンテーションを行い、観客も自由に見学できる)を採用しているのも、こうしたイベントを意識しているのだろう。
ライオンズイノベーションは本体の会場に隣接する別会場で開催され、3つのステージでIT系企業やデジタルエージェンシーによるセミナーが行われた。テーマは拡張現実、AI、ロボティクス、データマーケティング、デバイス活用、IoTなど。スポンサーにも、マルケト、オラクル、ルビコンなどデータマーケティング関連サービス企業、アドテク系企業が名を連ねる。
では、これら新しい部門の受賞作にはどんな作品が選ばれたのか。まず、グラスライオンのグランプリに選ばれたのは、インドでP&Gが行った生理用品ウィスパーのキャンペーン「Touch the Pickle」。インドでは、生理中の女性は“恥ずべきもの、呪われたもの”として、日常のさまざまな活動を制限されるという悪しき慣習が残っている。その象徴が、生理中の女性がピクルスの壺を触ると腐ってしまうので触ってはいけない、というものだ。ウィスパーはこの迷信に対し、女性たちがピクルスの壺に笑顔で触るテレビCMを流し、記者会見を行った。こうした施策の結果、インドの女性たちが声を上げ、メディアも巻き込んだ一大ムーブメントが起きた。ウィスパーのシェアも急激に伸びたという。
グラスライオンの審査員長のシンディ・ギャロップ(元BBH会長で『NYの女王』の呼び名を持つ)は「グラスライオンでは、実際に社会の何かを変えたものを評価した。Touch the Pickleがインドの女性たちとの間に築いたエンゲージメントは素晴らしい。見た人をインスパイアし …