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青山デザイン会議

ダイバーシティで変わるコミュニケーション

長谷部健×東小雪×増原裕子×日比野和雅

「ダイバーシティ」や「LGBT」というワードが、企業の競争力優位につながる新たな切り口として捉え直されている。ブランドがLGBTフレンドリーであることが購入意向を高めたり、また商品開発の過程で障害者の視点を取り入れることで新たなイノベーションがもたらされるといった側面が注目されるようになってきた。こうした流れを受け、広告の世界でも、こうしたテーマ・切り口を持ったコミュニケーションが続々と登場している。広告や企業のコミュニケーションにおいて、これからますます大きなテーマになると予想されるテーマだが、どうすれば当事者やその支援者たちを理解し、気持ちに寄り沿ったメッセージを打ち出すことができるのか。そこからさらに支援の輪を広げていくには、どんなアプローチが考えられるのだろうか。

今回は渋谷区の「同性パートナーシップ条例」の発案者であり渋谷区長の長谷部健さん、LGBTアクティビストとして活躍する東小雪さんと増原裕子さん、NHKの障害者情報バラエティ番組「バリバラ」のチーフプロデューサーである日比野和雅さんを迎え、先んじてこのテーマに取り組んで来た3組のお話にそのヒントを探る。

障害者のイメージの真逆を考えたら
バラエティ番組になった

長谷部 ▶ 2003年から渋谷区議会議員を、今年4月からは区長を務めていますが、大学卒業してから7年間は博報堂で広告をつくっていました。社会問題について考えるようになったきっかけは、ベネトンが「STOP AIDS」を掲げてコンドームを配布したセーフセックスキャンペーンです。企業の考え方や広告の力にものすごく衝撃を受けたんですね。同時期に地元原宿商店街の友人たちから区議選への出馬を薦められるようになり「政治こそソーシャルプロデュースだ」という言葉に後押しされて、3年ごしで覚悟を決めました。僕は生まれも育ちも神宮前(渋谷区)ですし、この街なら社会問題もクリエイティブに解決していけるのではないかと。それが次第にダイバーシティについて考えることにつながっていきました。

日比野 ▶ NHK大阪で、日本初の障害者による障害者のためのバラエティ番組として『バリバラ』を立ち上げ、以来チーフプロデューサーを務めています。バリバラは「バリアフリーバラエティ」の略。障害者が出演するバラエティ番組です。

長谷部 ▶ 初めて見た時は驚きましたよ。いま5年目くらいですよね。

日比野 ▶ ええ、月1回の特番として始まったのが5年前、定時化して4年目です。

長谷部 ▶ 衝撃でした。でも自分の考える空気感に近いかもしれないと思ったことをよく覚えています。

日比野 ▶ 僕は今日、皆さんにお会いするのは初めてですが、3人は元々お知り合いなんですか?

長谷部 ▶ ええ、僕は議員時代に同性パートナーに婚姻と同等の権利を有する証明書を発行する「同性パートナーシップ条例」を提案しました。無事可決され、施行に向けて動いているところです。その件もあって、増原さん、東さんとはこれまでもよくお話ししています。

東 ▶ 私と裕子さんはLGBTのアクティビストとして活動していて、お付き合いを始めて4年になります。2年前の3月に東京ディズニーシーで結婚式を挙げたことを話題にしてもらって、渋谷に越してきたのは最近ですが、私たちが生活の場を選択する上で、LGBTをとりまく課題を取り上げてくれる議員さんがいる自治体であるということが大きな後押しになりました。

増原 ▶ 私は3月までIT企業の会社員でした。ただ講演や研修などの依頼が急激に増えてきたので、思いきって会社をやめ、4月から2人でLGBTを広める活動に専念することにしたんです。日本ではカミングアウトして活動しているカップルはまだ多くありません。

東 ▶ マイノリティにどう接していいかわからず、戸惑うこともあるかと思います。でもわからないことすら、言っちゃいけない空気がある。バリバラはそういうところもオープンにしてくれて、何だか安心しました。この企画は、どのようなきっかけで生まれたんですか?

日比野 ▶ もともと前身の福祉番組があって、その中のいちコーナーとして始まった企画でした。『きらっといきる』というタイトルの。僕はそれがとてもイヤで(笑)。僕は「福祉臭」って呼んでいるんですけど、この妙な生真面目さが多くの人を無関心にする要因だと思うんです。アンケートをとっても、障害者に対しては「かわいそう」や「地味」といったキーワードしか出てこない。それは彼らをシリアスなドキュメンタリーでしか描いてこなかった我々メディアの責任でもありますが、その印象のままでは、結局自分とは関係のないものだという、差別の意識につながるんですよ。だったらまず障害者のイメージをひっくり返そう、ドキュメンタリーの180°逆は何だろうと考えていったら、バラエティになりました。

長谷部 ▶ 最初は笑っていいのかなとか、むしろ笑わなきゃいけないのかなとか戸惑うんですけど、よく見ていたら、ほかのバラエティと一緒なんですよね。当たり前だけど、障害者にもいろんな性格の人がいて。

日比野 ▶ 僕らと同じように怠ける人もいれば、すごくカッコいい、生き方自体がアートみたいな自閉症の人もいますからね。

東 ▶ いまでも「笑っていいんですか」という戸惑いの意見はありますか?

日比野 ▶ ありますよ。「障害者を笑いものにするな」というご意見だっていただきます。そういうときは「いやいや、障害者と笑っているんですよ」とお答えするようにしています。laugh atとlaugh withは全然違います。でもクレーム自体はほとんどありません。NHKですから、差別と偏見につながる表現は徹底的に精査します。危険なテーマや演出に関しては当事者の方と納得がいくまで議論します。そのリスク管理ができていれば、放送していけないテーマってないと思っているんですよ。

長谷部 ▶ なるほど。でもパイオニアになるってすごいことです。民放ではなかなかできないように思います。

日比野 ▶ 正直、第一回目の放映は怖かったです。でも60代以上のシニアの方から何件か苦言があったものの、若い方からは好意的な意見ばかりでした。始めるのが5年遅かったと思っているほどです。

LGBTについて考えることは
家族と地域について考えること

増原 ▶ 先ほどLGBTを広める活動に専念していると言いましたが、具体的には家族の形が多様になってきていることを身をもって伝えたいと思っています。私たち、子どもを持ちたいと思っているんですよ。

東 ▶ レズビアンがどうやって子どもを持つのかってよく聞かれるんですけど、いろいろな方法があるんです。私たちは精子提供を受け、自宅でシリンジを使って人工授精をして、妊娠出産したいなと考えています。現在の産科婦人科学会のガイドラインでは、婚姻しているカップル以外には、生殖補助医療を自主規制しているんですね。年上の裕子さんからチャレンジして、私もいずれ、ひとりずつ産めたらいいねと話しています。

増原 ▶ 性的マイノリティが子どもをほしいと言うと、絶対に苦労するとか、子どもがかわいそうなどと言われます。でも周りに応援してくれる人がたくさんいますので、大丈夫だと思っています。

長谷部 ▶ LGBTカップルが子育てするのは、街全体のためにもなるはずなんです。お2人はこれから自分たちで産むというチャレンジをされますが、養子縁組という形で、子どもを預かり育てる選択をするカップルもいずれ増えるでしょう。実際問題として、幼児虐待の件数は決して少なくなく …

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