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青山デザイン会議

そのアイデアは未来につながっているか?

伊藤剛×片渕須直×東畑幸多

そのアイデアは皆が耳を傾けたくなるアイデアか?人に伝えたくなるか?お金を出してもいいと思えるか?今ほど、アイデアのよしあしが純粋にジャッジされる時代はない。個人が、何か世の中のためになるアイデアや、どうしても実現させたいアイデアを思いついたとき、そのアイデアを発表し、広め、実現への道筋をつけていくことが今はできる。組織のバックアップがなくても、同じ問題意識や関心を持つ人たちにうまくアクセスできれば、支援者の声が集まる。資金的な援助を得られるクラウドファンディングの仕組みも整ってきている。よいアイデアを出すことが、未来を動かすことに直結するようになっている。

そうした中で、アイデア自体の真価が問われるようになり、またアイデアを大勢の人にどう語り伝えるかのスキルもまた求められるようになってきた。うまくアイデアを開花させられたプロジェクトはどこが優れていたのか、表現活動やものづくりのあり方はどう変わるのか。「シブヤ大学」などを立ち上げたデザイン・コンサルティング会社asobot代表の伊藤剛さん、アニメ映画『この世界の片隅に』の監督で、クラウドファンディングで“最短・最速達成”と話題となった片渕須直監督、数多くのヒットCMを生みだしてきた電通のクリエイティブディレクター 東畑幸多さんに話してもらった。

アイデアは違和感から生まれる

伊藤 僕は東畑さんがつくられた九州新幹線全線開業のCM「祝!九州」がとても好きなんです。公開された時期が東日本大震災の直後で、ACのCMばかりが流れているなかで、世間の「こういうものが見たい!」という思いとマッチしていたと感じます。僕は以前、外資系広告会社に勤めていたのですが、広告の世界に入ったきっかけはオリビエーロ・トスカーニのベネトンの広告でした。白人・黒人・黄色人種の女の子が3人並んで舌を出していて、「肌の色は違っても舌の色は同じ」というメッセージの表現を見て、ジャーナリズムとクリエイティビティを掛け合わせたところで何かできないかと思うようになりました。2001年にasobotを設立し、そこでNPO「シブヤ大学」を立ち上げたり、ジャーナル・タブロイド誌『GENERATION TIMES』を編集・発行してきました。一言で説明するのは難しいのですが、「形になっていないアイデアに形を与えていく」のが仕事です。僕のアイデアを育てるコツの一つは、“時間軸”で考えること。その瞬間だけではなく、長い時間軸の中にアイデアを置いてみることで強度が増すと思っています。

片渕 時間の発想を入れていくことは大事ですね。僕も映画をつくるとき、舞台となる土地について、過去にまでさかのぼって調べます。2009年に公開した映画『マイマイ新子と千年の魔法』では、映画の舞台である山口県防府市で千年前に何があったのかまで調べようと試みて、年表をつくりました。今見せていただいた『GENERATION TIMES』にも年表が載っていたから、伊藤さんもきっと自身の中でものごとを一回組み立て直して納得しているのではないでしょうか。現在制作中の映画『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)は第二次世界大戦中の広島が舞台で、当時の雑誌や写真をできるだけ集め、その日の天気まで細かく調べながら制作しています。

東畑 私はずっと電通でCMを作ってきました。広告なので、どんなアイデアを考えるときも、まずはクライアントの課題から始まります。九州新幹線のCMも、「新幹線が通らない県も含めて、九州みんなのめでたい出来事にしてほしい」という課題がきっかけで生まれています。でも、考えるときには、当たり前ですが、100%課題だけを見ているわけではなく、世の中のことだったり、自分の興味だったり、をヒントにしながら考えるわけです。今まさに、私にも“時間軸ブーム”が来ています。きっかけは、NHKの「ファミリーヒストリー」という、タレントの家族の歴史をたどる番組を見て、いまの時代を生きている人は、誰でも、奇跡的に生き残ってきた遺伝子の末裔であり、「僕は、誰かの未来だったんだ」という当たり前の事実に気がつかされて。目の前にあるものを、歴史という時間軸を加えて見ると、全く違う側面が見えてくるのが、面白いなと感じています。

伊藤 『GENERATION TIMES』でも「ルーツ」の特集を組んだことがあります。あるとき祖父と話をしていて戦争体験の話になり、もしそこで祖父が生き残らなかったら自分はここにいなかったとはたと気づいて。東畑さんがおっしゃったように、ここにいるということは生存してきた証なんだなと。

東畑 伊藤さんはアイデアを考えるときに、時間軸をどうヒントにするのですか?

伊藤 企画をつくるときに“今の瞬間”のインサイトを考えるだけでなく、「10年後の人もどう思うか」と常に考えるようにしています。僕は“今の瞬間”と過去や未来の瞬間は、切れ目なく地続きでつながっていると思っています。例えばペリー来航のとき、実は黒船に記者が同乗して取材していたことなどと知ると、昔話と思っていたことが、急に現代の話に見えてきますよね。

片渕 今、映画を進める中で、戦争の話を語る上で、一回「既存の文脈を解体する」必要性を感じています。戦争を「東京大空襲」や「モンペ姿」というステレオタイプなイメージでとらえていると、実は戦時中でも銀座はお洒落な街だったことや、芝居を見に行っていたことがわからず、自分自身の実感を携えて物語を描けないんです。

東畑 お2人とも、従来の歴史の語り方に対する「違和感」みたいなものが、アイデアを考えるポイントになっていますね。

伊藤 僕は自分自身がものすごく先入観にとらわれていることに、世界中を旅したとき気づいたんです。さっきのペリーの話のように、その先入観がびりっとはがれ落ちると、自分の中で見える世界が広がる感覚があって。そういう風に脳みそが動くとき、何かを見つけやすくなる気がしています。

「そういう人は必ずいる」と信じて届ける

片渕 『この世界の片隅に』は、制作資金集めの一助としてクラウドファンディングを利用しました。おかげさまで、1週間あまりで目標額の2000万円を達成し、「国内史上最速・最高額」とニュースに取り上げられました。クラウドファンディングを利用した背景には、前作の『マイマイ新子と千年の魔法』での苦い経験があります。アニメ=子どものものと思われがちですが、実際には子どもはよく知っているキャラクター以外のアニメはなかなか見ようとはしません。だから、僕のアニメはまず大人に見てもらって、次に自分の子どもを連れてきてくれるようになるものにしたいと思っていたんです。告知も大人向けに行ったのですが、フタを開けてみたら劇場での上映時間が子ども向けの時間帯に設定されていて、大人が見にくることができなかった。『この世界の片隅で』も大口出資の話がありましたが、結局、集客の部分で不安視されて不成立になってしまって。それで新たな方法を試そうと思ったわけです。大人向けのアニメを見たいと思っている人たちの、その声や欲望をクラウドファンディングによって表面化させられたかなと思います。

東畑 アイデアを実現するには、周りの人たちをどう巻き込むか。参加する人たちのための「物語」を作る重要性や国語力が、ソーシャル時代は、さらに求められています。片渕さんのクラウドファンディングはそれが成功したいい事例ですよね。

片渕 インターネットで敏感に反応できる人、アニメを取り巻く現状に納得いってない人を顕在化できたとは思います。けれど、それは必ずしも世の中の大多数ではない。今後の広げ方は課題ですね。クラウドファンディングで集まった2000万円はパイロット版の制作費で、本編はその10倍以上の資金が必要ですし、それは回収されなくてはならない。映画がちゃんとお客さんに観てもらえて初めて成功と言えるんです。

東畑 お2人とも、世の中に対する問題意識を大切にされている。僕は自分の声を聞く、自分の声に耳を澄ますことがアイデアを考える上で、最後は一番大事だと思います。アップルのキャンペーン「Think different.」はピカソやアインシュタインが出てきて「クレイジーな人が世界を変える」と言っています。クレイジーと聞くと、特別な遠い人の話のようだけど、そうじゃなくて「自分の声を聞いた人」「素直な人」とも言える。世の中の声じゃなくて、自分の声を聞くには勇気がいる。でも、そこを通っていないアイデアは、強度がない。成功しているプロジェクトには、必ず強い「動機」をもったキーマンがいるものです。

伊藤 僕は子どもの頃から“自己対話癖”があって、歌番組「ザ・ベストテン」の結果を毎週ノートに記録しては、「自分ならこの順位にするな」と1人で作り直す遊びをしてました。レコードショップに行って、その通りにレコードを並べ替えてみたり。今思えば何だったのかなと思いますが(笑)。

東畑 自分の声を聞くには、自己対話って、大切ですよね。1人で考える時間が重要です。SNSのおかげで、いつも誰かと繋がっている、という状態が失っている大事なものがある感じがします。「孤独は良くない」という風潮が、特に若い人には本能的にある気がしていて。あれ、小さい頃に歌わされていた「友達100人できるかな~」って歌のせいかもしれない。でもこれからは …

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