「がんばる母さんやめました」自分らしさを探る「卒母」の考え方
『卒母のためにやってみた50のこと』(大和書房)という本に出会い、ページを繰り出したら止まらない。手書きの文字とイラストで構成されているたたずまいもユニーク――著者でありグラフィックデザイナーの田中千絵さんに話を聞いた。
デザインプロジェクトの現在
4月3日、「東京ミッドタウン」に「ISETAN SALONE」というショップがオープンした。伊勢丹が百貨店という枠をはみ出た、いわば実験店。内装デザインを手がけたのは「新素材研究所」を率いる杉本博司さんと榊田倫之さんだ。
六本木にある東京ミッドタウンの商業ゾーンである「ガレリア」、その正面玄関のすぐ脇の1階・2階を占める900平方メートルにわたって「ISETAN SALONE(イセタンサローネ)」は登場した。コンセプトは「商品とアートの融合」。1階は宝飾・時計、ハンドバッグ、雑貨類とプロモーションスペース。2階は婦人服、スカーフ・帽子、婦人靴、コスメ、フレグランス類、奥にはVIP顧客のためのフィッティングルームがある。
訪れるとまず目を引くのは、入り口の設えだ。天井高に近い丈の屋久杉の扉が、広々と開け放たれ、居並ぶさまが美しい。歩を進めると、微かな陰りを湛えた壁面を背景に、魅惑的な什器が並んでいる。奥に進んでいくと、鱗のような壁面を供えた贅沢な階段が現れる。確かな品格を備えながら、決して敷居が高くない。十分な斬新さを感じさせながら、落ち着いた空気が流れている。どうやって、このユニークな空間が創られたのか、杉本さんの意図するところを聞きに行った。
言及するまでもないが、杉本博司さんは現代美術作家として、多彩な活動を繰り広げている方。2008年、榊田倫之さんと「新素材研究所」を立ち上げた。同所は、中世や近世に一般的だった素材や技法を、今という時代の中で再編集し、旧くからある素材や技に磨きをかけることで、時代の切っ先を拓く試みに挑戦している。
お話をうかがった白金の仕事場は、まさにこの思想を体現した場。扉を開けると異次元に迷い込んだかのような空間が広がっている。さまざまな石材や砂利、木材、畳や障子など、日本古来の素材と技が込められている。そして不思議、不思議。身を置くだけで清々しく晴れやかな気分になってくる。これはなぜなのか――場そのものが圧倒的な品格を放ち、未来性に充ちているから――「近代化の中で忘れ去られそうな技術を固持・伝承し、磨きをかける。規格化され表層的になってしまった建築資材ではなく、職人的技術が必要とされる伝統的素材を大切にする」という意図が、何も語られずとも、五感を通して腑に落ちてくるのだ。
杉本さんが、小売店の空間デザインを手がけたのは …