世の中に数多ある商品やブランド。価値やその背景にあるストーリーをより深く知ってもらうべく、商品やブランドそのものを体験してもらう企画が、ここ数年、増えています。その多くは開催期間も短い上に、都心の商業施設やプロモーションスペースで行なわれ、必然的に参加者は限定されます。実施した内容を映像化し、後のPRに使うケースも見られますが、なぜこうしたプロモーションが増えているのか――。その答えの一つはいうまでもなく、従来のようにただ「広告を見てもらう」だけでは、もはや人は動かない。それだけでは関心を持たれにくくなっているからです。例え小さなことでも、その商品やブランドにまつわる“何か”を体験することで、人の記憶に残るかもしれない。さらには人の気持ちや行動に小さな“変革”が起きるかもしれない。そこに対する期待と実感が増しているようです。本特集では5月に始まったミラノ万博の最新事例をはじめ、この1年間に行なわれたさまざまな「体験」事例を集めました。綿密に設計をしても、「いざやってみないとわからない」のが、体験企画。その企画の核となる部分と現実の揺れの部分に迫ります。
今年3月、東京ミッドタウンにクロックスによる「空中ストア」が、4日間限定でオープンした。吹き抜けのスペースに設置されたディスプレイには、カラフルなスニーカーが並んでいる。そこを訪れた人たちが見たものは、そのディスプレイからスニーカーをピックアップし、来場者のものとへ運ぶ小型無人飛行機「ドローン」である。
見た目とのギャップを伝える体験
「空中ストア」は軽い樹脂製のサンダルで知られるクロックスが発売した新製品のタウンスニーカー「norlin(ノーリン)」のためにオープンしたショップだ。「日本は近年、空前のスニーカーブームで、市場が伸びています。その市場を受けて日本に向けて開発されたのが、ノーリンです」(クロックス ジャパン PR 斎藤千洋さん)。しかし、日本におけるクロックスの認知はスニーカーより、やはりサンダル。デザイン的にはベーシックなタイプのスニーカーということもあり、その登場感をどのように伝えるかが課題となった。
「クロックスが発売するスニーカーという話題性もさることながら、このスニーカーの一番ユニークな点、それは圧倒的な軽さでした」と話すのは、猿人 クリエイティブディレクター 野村志郎さん。「最初にノーリンを手にしたとき、誰もが思わず“うわっ、軽い!”と言ってしまいます。僕らも事前に話を伺っていたにもかかわらず、実際に手にした瞬間、その圧倒的な軽さに驚きました。見た目とのギャップが大きく、誰もが軽さに驚く。その“驚きの軽さ”を伝えることが、今回のプロモーションにおいて一番の核になりました」。
「驚きの軽さ」が伝わるのは、どんな体験か。それを検討する中で、選ばれたのがドローンだ。この1年の間に、広告コミュニケーションにおける活用も増え、メディアからの注目度も高い。そこで圧倒的な軽さを伝えるためにドローンを活用し、「世界初の無人飛行機を使ったコンセプトストアのオープン」という企画を構築。3月のオープンを目指し、昨年夏から企画を実現するための開発と実証実験が始まった。
安全のために徹底的に検証
空中ストアでドローンは、次のように動く …