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知・技・心の クリエイティブ入門

森本千絵さんへの質問「仕事量が多く、キャパを超えた状況が長く続いています。そんなときに、質と量を一定以上に保つために、どのように仕事を進めていますか。」

森本千絵

読者の皆さんからクリエイティブの仕事をする上での悩みや課題を送っていただきました。その中から今回、職種にかかわらず、多くの方々に共通するであろう課題や悩みを編集部がセレクト。第一線で活躍中のクリエイターの皆さんに自身の経験やこれまでを振り返ってもらいながら、質問にご回答いただきました。

Q:仕事量が多く、キャパを超えた状況が長く続いています。
そんなときに、質と量を一定以上に保つために、
どのように仕事を進めていますか。

A:自分が納得できて、
心の底からいいね
と思えるまでつくり続けます。

自分が納得できるレベルと基準

子どものときからせっかちで、常に何か手を動かしていないと気が済まない性格。だから博報堂に入社後、仕事ができない土日がすごく憂鬱でした。常に何かしていないと、自分がだめになりそうな気がして…。最近はそれではいけないと思って週末は休むようにしていますが、仕事に関しては、自分の手できちんと最後までやり遂げたいという想いが強くあるんです。

一時期はある程度ディレクションをして、誰かに託してしまったほうが自分も楽になると思ったこともあります。でも、やはりそれだと自分の納得がいかない。無理してでもがんばって、自分で定着させたほうがいい。そう思うのは、なんでしょうね……。やはり完成物の質を高めたい、そこに尽きるのではないでしょうか。自分が納得できて、わあ、いいね!と自分が心の底から好きになれるところまでいかないと、どんな仕事でもやる意味がない気がしているんです。それはもしかすると、自分の自分に対する礼儀のようなものなのかもしれません。

当然のことながら、アートディレクションにもいろいろなやり方があるわけで、ある程度フォーマット化し、どんどん量産して世の中に広げていったほうが、つくる方も楽だし、クライアントの売上げにも貢献できるかもしれない。でも、私はやはり自分が興味を持てないものはつくりたくないし、依頼をしてくださったクライアントには絶対に喜んでほしい。担当した企業やブランドがこれまで以上によくなってほしい。そう考えるから、どんな仕事も全力で取り組むし、仕事を進めるうちにそのブランドがどんどん好きになる。そうなったときには、もう他人ごとではなくなっているんです。

そもそも私は生来の買い物好き。パンクなものからスイートなもの、チープなものから高級品まで、ジャンルを問わず、いいと思ったら買ってしまう。それが100円ショップで売っているものであろうと、遠い国の路上に並んでいたものであろうと、自分の中にあるレベルと基準を満たしていれば手に入れます。そうやって買い物をしているときに、自分が担当しているブランドや商品のことがどんどん浮かんでくるんです。「こうすれば、この商品はもっと愛されるかな」「これは女性ブランドにはないやり方だな」とか…。あれも必要だ、これも改善していくべきだ、こんなのあるといいと考え始めると、止まらなくなる(笑)。最初は小さな港の内側にいたはずなのに、「もっと遠くへ行きたい」「もっと遠くへ行きたい」「もっと、もっと」と前に進んで、気がつくと大海原にいた、という感じです。頼まれてもいないのに、そのブランドにいま足りないもの、必要なものを企画したり、実際につくってみたりしています。そうすると、当然のことながら作業の物量も増えるし、そこに私自身が納得する質の高さも求めるから、自分もキャパを超えそうになるし、スタッフも大変なことになってしまうときもあるのですが…。

そうなってしまう背景には、どの仕事も依頼されたことをきちんとやり遂げる一方で、「ここまでやりたい」と考えていることの、実は5分の1くらいしかできていない、ということがあると思います。仕事としては終了したけれど物足りなくて、納得がいかなくて、もっとこうすればよかった、ああすればよかったという反省も出てきて…。それを満たそうと思って、次の仕事に挑む。真剣にやればやるほど、そういうことが見えてきてしまうんです。だから次はもっと、となる。その繰り返しです。

それって物欲が止まらないのに近いのかもしれないですね、この前買った服と同じものを、また買っちゃった…みたいな。結婚してから仕事の進め方を変えたので、以前よりは少しあきらめるところも出てきたのですが、多分この性分はずっと変わらないでしょうね。

森本千絵(もりもと・ちえ)

goen° アートディレクター/コミュニケーションディレクター。企業広告をはじめ、ミュージシャンのアートワーク、本の装丁、保育園等の空間ディレクションを手がけるなど活動は多岐にわたる。伊丹十三賞、日経ウーマンオブザイヤーなど多数受賞。
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