クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第73回目は、イラストレーターのNoritakeさんです。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『物の味方(LE PARTI PRIS DES CHOSES)』
フランシス・ポンジュ(著) 阿部弘一(訳)
(思潮社)
数年前、打ち合わせの帰りに立ち寄った神保町の古書店でタイトルに惹かれ、少し立ち読みをして、すぐに文章に引き込まれたことを思い出します。
本書には「雨」「オレンジ」「パン」など、日常のありふれた物や事象を観察した32編の詩がまとめられています。文体は個人的感情を排し、時に物の側に立ち、淡々とその事象を描写していきます。「雨」では、雨粒のディテールから徐々に俯瞰し、変化していく風景を描き、最後に雨があがるまでを過不足ない言葉の連続で事細かく描き出しています。頭の中に記憶の中の庭があらわれます。また、徹底的に客観視することで、感情的な表現を越えて本質的に感情を揺さぶる表現に近づいているようにも感じ取れます。
本書を読み終えたあと、近所を歩いただけでも、建物と空のコントラスト、道路の白線の形、目の前を歩く人の動きなど、気に留めていなかった物事を観察するようになりました …