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デザイン起点のクリエイティブディレクション

日本にデザインという思想をもたらす仕事

佐野研二郎

昨秋、ファーストリテイリングはワイデン+ケネディのクリエイティブディレクター ジョン・C・ジェイ氏をグローバルクリエイティブ統括(President of Global Creative)として迎えることを発表しました。経営者の横に、共に動くクリエイティブディレクターがいる――。2人が並ぶ様子はこれからの企業とクリエイターの在り方のひとつを象徴していました。この例に違わず、近年、デザインの役割は意匠としてのデザインにとどまることなく、多様化していることはもはや言うまでもありません。広告のアートディレクション、パッケージデザインにとどまらず、その役割はより川上へ、川上へと進んでいます。

社会における新しい枠組みや活動、企業の戦略や組織、さらには新しい事業計画や市場の開発にもデザインの力が必要とされています。そのソリューションも、何か“形”として世に出るとは限りません。いま現場で活躍するアートディレクターもクリエイティブディレクターを兼任するケースが増えています。コピーライター、プランナーと異なり、“デザイン”という強みを持つアートディレクターたち。この時代に彼らの力がどのように発揮され、これからの社会の中で何をデザインしていこうとしているのか。広告、ブランディングをベースとする9人のアートディレクターに聞きました。

どんな仕事でもまず、「この広告をどういうトーンにするか」を1枚の絵にして考えるという佐野研二郎さん。そこで見せたラフや発した言葉が、新しい広告の方向性を決めることも少なくない。

佐野研二郎(さの・けんじろう)
1972年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経てMR_DESIGN設立。多摩美術大学統合デザイン学科教授。MR_DESIGN_NEWYORK設立。主な仕事に、東京国際映画祭ロゴマーク、サントリー「南アルプスの天然水」「グリーンダカラ」「BOSS」、トヨタ「NEXT ONE」「ReBORN」「TOYOTOWN」、映画「STAND BY MEドラえもん」、NHK Eテレ「ふうせんいぬティニー」、幻冬舎「パピルス」、mAAch エキュートロゴマーク、名古屋市東山動植物園ロゴマークなどがある。

予定調和ではないビジュアル

1月にお披露目された「TOYOTA NEXT ONE // AUSTRALIA 2014」は、昨年9月に実施された豪州大陸走破プロジェクトを広告として展開したものです。これはトヨタ自動車の社員の方々が2014年9月から72日かけてオーストラリア大陸を1周(約2万km)走破した様子を撮影しています。「TOYOTA NEXT ONE」とはトヨタ自動車が「“もっといいクルマづくり”を伝えたい」という想いから発足した新しいコミュニケーション活動で、豊田章男社長直轄のプロジェクト。髙崎卓馬さんがクリエイティブディレクターとしてプロジェクトをまとめ、そのアートディレクションを僕が担当しました。依頼を受けたときは、既に大きな枠組みはできていたものの、どういう展開で、どういうアウトプットになるのか、具体的なことは何も決まっていませんでした。

長期間にわたる撮影だったこともあり、写真家 瀧本幹也さんをはじめ、彼の弟子だった写真家数名でチームを組んで撮影にのぞみました。これは久しぶりに悩んだ仕事で、最初はどういう撮り方をすればいいのか、見当がつきませんでした。クルマの撮影方法はいろいろあるけれど、まず商品広告ではない。トヨタの理念を伝えるための新しいプロジェクトです。ここで何を伝えるべきかと考えたとき …

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日本にデザインという思想をもたらす仕事(この記事です)

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