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注目のクリエイティブ・チーム

若手アートディレクターが切り拓くコミュニケーションの未来

I&S BBDO 杉山生+宮本拓也

視力の悪い人にしか見えないセール告知、ライオンやトラが“デザインした”ジーンズ、思わず「?」と考えてしまうこの二つのクリエイティブ。いずれもI&S BBDOの若手アートディレクターの手によるものだ。これらは2014年、海外広告賞で入賞を果たしている。

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左:I&S BBDO 杉山生(すぎやま・せい)
2005年多摩美術大学卒業後、I&S BBDOに入社。生と書いて、「せい」と読む。Twitter #Hashtag Award 2013でグランプリ、カンヌライオンズ2014でブロンズなど、国内外賞受賞多数。

右:I&S BBDO 宮本拓也(みやもと・たくや)
2003年東京造形大学卒業後、広告制作会社を経てI&S BBDOに入社。交通広告グランプリ、ADFEST、AD STARS、スパイクスアジアなど受賞。

錯視を活用した新しい表現

I&S BBDOのクリエイティブ部門の名称は「コンテンツディベロップメントグループ」という。同社ではクライアントワークにおいて、「世界で最も“行動を引き起こすコンテンツ”を創り出すこと」を目標としている。そのため、クリエイティブ部門に所属する人にとって「コンテンツ」を創り出すことは常に仕事のベースにあるもの。クライアントワークにとどまらず、各人が自主的に企画する風土がある。

こうした環境から生まれてきたクリエイティブのひとつが、ミヤモト眼鏡店のセール告知のポスターだ。一見、何も文字が入っていないように見えるが、「実は視力が悪い人にだけにセール告知が見えるポスターです」と、制作を手がけた同社アートディレクター 杉山生さんは話す。線を太らせることで生まれる錯視(目の錯覚)の効果をデザインに生かしているのだ。「眼鏡を買う人は、つまり目が悪い人。その人たちにメリットがある表現を模索していたときに錯視を思いつき、実際に見えるのかどうか検証を始めました」。線を0.01mm単位で刻み、検証を重ねた結果、「Only the people who need glasses can see!?」というタイトルを実現することができた。このユニークな発想から生まれたポスターは、2014年カンヌカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルのアウトドア部門でブロンズを受賞した。「仕事をするときは常に、自分が絶対に面白いと思うものを提案していきたいと考えています。この仕事もそのひとつで、これまでとは違うものがつくれたと思っていたところ、カンヌで入賞することができて本当にうれしかったですね」(杉山さん)。

将来、グローバルで仕事をしたいと考えている杉山さんは、2012年に休職して留学をした。「言語の壁を越えて表現できるようになりたいと思っています。英語でのコミュニケーション力を身につけることはもちろんですが、それ以前に誰が見ても直感的に魅力を感じてもらえるものを作っていくことが大事ではないかと、最近は強く感じています」(杉山さん)。

ライオンが“デザイン”したジーンズ

同じ2014年夏に、「ライオンがデザインしたジーンズ」というニュースが、ネット上で話題を集めた。それは、“ZOO JEANS(ズージーンズ)“と名づけられたプロダクト。茨城県日立市にあるかみね動物園の来園者増加を目的として、ボランティア団体「みねこクラブ」と共同で制作されたものだ。「かみね動物園は地元の人、家族連れに親しまれているけれど、若い層の来園をもっと促進したいという課題がありました。その層に関心の高いファッションを絡めて施策ができないかと考えたことが、企画の始まりでした」と、同社アートディレクター宮本拓也さん。ファッション×動物から生まれたアイデアが、「動物が破いたり、噛んだりした=デザインした」ジーンズをつくることだった。

飼育員に相談しながら、どうすればライオンやトラ、クマに生地を触ってもらえるかを検討。ボールやタイヤを使い、動物たちの遊具を製作、そこに生地を巻いて遊んでもらうことで、ダメージのあるデニム地づくりを成功させた。ところが、縫製工場から「縫うのが難しい」という理由で断りが続いた。「藁をもすがる気持ちでお願いした藍布屋さんが“面白い、やろう”と言ってくださり、実現することができました」。

完成したデニムはオークションにかけられ、うち2着はそれぞれ15万円という金額で落札。この話題は海外のニュースメディアでも取り上げられた。またスパイクスアジアのアウトドア部門でシルバーを、プロモ&アクティベーション部門でブロンズを受賞した。「国内のみならず、世界中の人からの反響を得られたことは、自分にとってよい刺激となりました。あらためて年齢、地域を問わず、どんな人にも“あの広告、面白かったね”と言ってもらえるものをつくりたいと思いました」(宮本さん)。コミュニケーションの可能性を探る

クリエイティブな仕事をしている人たちに限らず、誰もが世の中に面白いクリエイティブを発信できる時代。情報があふれる中で多くの人の目に留めてもらうクリエイティブをつくるために、二人はどんなことを考えているのだろうか。「いまは国境も言語も飛び越えて、さまざまな情報が飛び込んでくる。生活者の情報を見る目も肥えているので、つまらないものには見向きもしてくれません。だからこそ、クリエイティブという言葉の本来の意味通り、独創性に優れたものが目立つし、そういうものをつくっていかなくては、と思っています」と、杉山さん。その言葉を受けて、宮本さんは「僕たちがつくるものは広告の範疇に入るものだけれど、表現もメディアも従来の枠組みをはずして考えてくことが必要。部署名の通り、コンテンツをつくるという考え方で、コミュニケーションをより広げてくれる可能性のあるものは、どんどん探っていくべきだと考えています」と話す。

何事にもチャレンジングな二人の視線は広告という枠組みや国境を飛び越えて、コミュニケーションの新しい可能性に向けられている。

杉山生さんの仕事より

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01 ミヤモト眼鏡店 ポスター
02 マースジャパン スニッカーズ 限定パッケージ デザイン
03 Twitter #Hashtag Award グランプリ受賞作品

宮本拓也さんの仕事より

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04 ZOO JEANS
05 渋谷LOFT 秋シーズンビジュアル

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