「昭和度が高すぎる」「つい最後まで見てしまった」「歌が頭でループする」――。Web上でこんな声が多数挙がったのが、2014年10月、西友が公開したPV「振り向けば、アンチ特売」である。
店頭から始まった企画
歌うのは、昭和の大ヒット歌謡曲「氷雨」で知られる演歌歌手の佳山明生さん。一度聴いたら忘れないインパクトがある楽曲、昭和の刑事ドラマを彷彿とさせる映像は、公開されるとすぐにSNSを中心に拡散された。「当初、店頭プロモーションのみの企画だったんです」と話すのは、ドリームデザイン クリエイティブディレクター 島津裕介さん。
西友は2014年10月に「みんなのアンチ特売宣言」と題し、店頭とチラシを一部の店舗で展開した。その目的は、西友が掲げている“EDLP(EVERY DAY LOW PRICE)”の消費者理解を促すこと。「多くのスーパーのチラシには、毎日のように“特売”という言葉が記されています。それを求めて、今日はこちらのスーパー、明日はあちらのスーパーと、特売商品を求め歩く人もいる。それが当たり前のようになってきており、“EDLP”という考え方が理解されにくくなっていました」。
1日あるいは短期間のセールを意味する特売のように「今日だけ安い」のではなく、「EDLP」はその言葉通り「毎日安い」。この考え方をきちんと伝えるべく、同社では一部の地域で実験的な試みに挑んだ。まず企画としてスタートしたのは、折込チラシだ。大きく書かれたコピーは、「西友は昨日も安かった!」。そして、掲載されている商品には「昨日○○円でした」と記されている。「チラシは本来、“現在形・未来形のコミュニケーション”として使うものですが、あえて“過去形のコミュニケーション”というチャレンジを提案しました」。さらに店頭もいたるところにPOPを掲げ、「今日も昨日も同じ価格」であることを強力にアピールした。「ある意味、“特売”に挑戦状をつきつけているように見えますが、あくまでもチャーミングに挑戦する。どちらがいい悪いと決めつけるのではなく、EDLPをきちんと理解してもらうことを重視しました」。
よりわかりやすく伝えるべく新たな施策を考えたとき、店頭で何ができるのか。手は買い物かごで塞がっていて、目は商品やPOPで満たされている。そんな状況を考えたときに、残されていたのは音だった。そこでクリエイティブチームは「歌」に着目し、アンチ特売のテーマソングづくりに取り掛かる。
「ノイズの多い店頭でしっかりと歌を残すためには、その環境で違和感のあるものがよいだろう。なおかつアンチ特売というフレーズをしっかりと覚えてもらうために、一度聴いたら思わず歌えるものがいい」。
音楽制作会社 インビジブル・デザインズ・ラボの清川進也さんに相談する中で、チームの意見が一致したのが、あまりスーパーで流れることのない昭和歌謡。「昭和歌謡を本気で歌える人」を探したところ、佳山明生さんが引き受けてくれた。「清川さんから音楽のラフが上がって来た時点で、この歌をPV化したい、と考えました。PVが話題になれば、『アンチ特売=EDLP』という西友がいま広げていきたいキーワードを、店頭を越えてPR/ニュースとして広げていくことができるのでは、と考えたからです」。今度は、そこからPVの制作がスタートした。
“昭和”をやりきる
映像は、「特売」を愛してしまい…