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牧野伊三夫さんが選んだ4冊の本

牧野伊三夫

クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第69回目は、画家の牧野伊三夫さんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。

『男おいどん』

加松本零士(著)
(講談社)

漫画家松本零士を知ったのはテレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」だった。中学生の頃僕はこの番組に熱狂していたが、原作者が誰かは知らなかった。当時、九州・小倉で父母が営んでいた小さな商店に、松本零士さんのお母様が買い物に来られ、「息子のマンガがテレビで放映されているから観てください」とおっしゃったらしい。僕は、原作者の実家が自分の家から歩いて五分ほどのところにあると知って驚いた。そして他にはどんな作品があるのかと本屋へ駆け込み、この「男おいどん」に出会った。このマンガは宇宙を駆け巡る他の松本零士さんのSF作品とは赴きが全く異なる。東京のオンボロアパートで暮らす大山昇太という、貧しくさえない青年の物語で、インキンタムシ、ラーメンライス、たまご酒、下宿のばあさんなどが描かれている。ヒーローも登場せず、とくに心躍るような展開もしない。ただただ平凡な、どこかヤケクソな日記のようなマンガだったが、あふれるような人間味があった。松本零士さんが独自のマンガの世界を切り拓いた時期の作品で、人類初のインキンタムシマンガらしい。僕は貧しいながらも、たくましく生きる主人公に影響されて、気儘な四畳半での暮らしに憧れるようになった。

『ヴィヨンの妻』

太宰治(著)
(新潮文庫)

高校の教科書で『人間失格』を読んで以来 ...

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