メッセージをただ届けるのではなく、最高のブランド体験を生み出す。サイバーエージェントのクリエイティブ・テクノロジー局は、デジタルとの掛け算によって、既存の手法から新たな価値を提供する。
デジタルセントリックな発想とは?
インターネット広告代理事業のシェア、国内No.1の実績を持つサイバーエージェント。専門領域に特化した部署が数多くある同社の広告事業本部において、先進的な取り組みを展開しているのがクリエイティブ・テクノロジー局である。「目指しているのは、単にメッセージを届けるだけでなく、デジタルの力でユーザーにとって最高のブランド体験を生み出し、ヒト、モノ、コトを動かす新しい広告のカタチを創ること」。局長の二宮功太さんはこう語る。
スタッフは現在24人。広告の企画を担当するBx-Designチームと広告のクリエイティブを担当するBx-Creativeチームの二つで構成されている。BxとはBrand Experienceの略で、ブランドと紐づいた形でユーザー体験を重視する同局の姿勢がうかがえる。
体験を生み出す装置は一つとは限らない。デジタルを軸にさまざまなメディアやサービス、先端技術と掛け合わせることで新しい広告やユーザー体験のプランニング、クリエイティブに取り組んできた。イベントはイベント、OOHはOOHという縦割りではなく、デジタルの力で壁を壊しそれらを繋ぎ合わせることで相乗効果を生み出している。「既存の手法も新しい価値に生まれ変わる。それを提案するのが、僕たちのミッションであり、使命だと思います」。マスありきの発想が一切ないデジタルセントリックな発想が同局の強み。デジタルにフォーマットはない。それゆえにユーザー接点は多様で柔軟であるとしている。
中立的な手法選定で広告効果を出す
たとえば、Amebaサービス開始10周年を記念して今夏、鎌倉に2ヵ月限定の海の家をオープンしたキャンペーンでは、企業やブランドと協業して特別企画を行った。サントリーC.C.レモンとのコラボで約3mの超特大レモン型写真プリントマシーンを設置。来場者がその場で写真を出力し、デコレーション機能で加工した画像をAmebaやLINE、FacebookなどのSNSに簡単に投稿できる仕組みを搭載した。企画から実行まで一気通貫して取り組む体質(現場力)も同局の強みの一つ。下請けに任せきりということは決してない。プランナーが現場に張り付き、メンテナンスや運営などを臨機応変に対応していく。その甲斐あってか、海の家の企画はテレビ番組に取り上げられるなど、PR効果を高めることができた。
同時期に行った企画では、4匹の猫たちが全力で「ピザハット」の運営にチャレンジする動画を公開。その名も「ピザキャット!店」。猫たちが電話対応やお店のお掃除、配達ルート確認に取り組む様子がシュールで可愛いと評判を呼び、国内メディアはもちろん、TIME、ABC NEWS、Washington Post、ADWEEK、BUZZFEEDなどの海外メディアにも波及し、売上目標もクリアできたという。話題になったけれどビジネス結果に結びつかなかったというキャンペーンは数多い。同局では数字から逃げずに、KPIなどメジャメント可能な実効果を出す企画を、プランニングの段階から意識している。
挑戦的な企画が実現できるのもクライアントとの距離感が近く、プランナーやクリエイティブが能動的に自分ゴト化できているから。そして、放っておいてもチャレンジするベンチャー精神が一人ひとりのスタッフに根付いているから実現できたという。「何かに特化するというよりも、効果的なコーディネーション、メディアとの掛け算がこのチームの強みです」。
近年は、自社内のオンライン動画専門部署「Online Video Studio」や、アドテクノロジー専門部署「Ad Tech Studio」などと連携した企画にも注力している。ユーザーの行動に基づいたデータから企画立案やクリエイティブプランニングできるよう取り組んでいる。「マス広告を起点に展開するのは時代の流れにそぐわなくなっている。その意識改革をしていかなければイノベーションは起こりません。広告戦略や予算策定の通念を変えたい」と二宮さん。一部のクライアントはマスありきで余り予算をインターネットに回す、という概念がまだ根付いている。まずテレビスポットという発想でスタートしてアイデアや予算を無理矢理その形式に合わせるのではなく、すべての手法を中立的に見て、ターゲットを効果的、効率的に動かすアロケーションを考えるべきであり、今後も実践していきたいとしている。