クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第68回目は作曲家の阿部海太郎さんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。
『羊の歌 わが回想』
加藤周一(著)
(岩波新書)
小さい頃から今まで、僕にとって読書は習慣であったことが一度もなく、例えば旅行中の珍しい光景や、親友との最初の出会いのように、それは常に偶然の出来事として現れます。高校時代に恩師から薦められて読んだ最初の加藤周一は、東京やパリの都市・建築について書かれたもので、その深い思索と圧倒的な論述の構成力に深く感動したことを覚えています。ときに芸術家以上の感覚と想像力を発揮しながら、しかし飽くまで論理の大切さを説いたこの哲学者・批評家は、かつてヴァレリーが批判した「学者による芸術論」の限界を優に乗り越えた、ほとんど唯一の人物だったように思います。なにがこの哲学者の論理を鍛えたのかと言えば、学生として、また ...