鶴屋百貨店は熊本県民であれば誰もが知る、創業62年の地域に根差した百貨店だ。同社では2012年に、従業員の意識改革と環境改善を目指した「鶴屋イノベーション・プロジェクト」を立ち上げた。同プロジェクトのリーダーを勤めた電通の岸勇希さんはファシリテーターに徹し、アイデアを生み出せる人材を育成、自由闊達にアイデアが提案できる環境を作っている。
100年後も見据えた人を育てるための改革
地元・熊本県で愛される地域一番店で在り続けるために、また、地方百貨店が生き残るために今、何をすべきか――。今から2年ほど前、電通 岸勇希さんは、鶴屋百貨店(以下、鶴屋)の久我彰登社長から相談を受けた。
大型ショッピングセンターが日本各地に点在し、インターネットを使えば、いつでもどこでも簡単に商品が手に入る。そんな現代における百貨店の存在意義について、久我社長は危機感を持っていたという。それに対して岸さんは「久我社長は100年先までも見据えており、ロングスパンで貢献できるプロジェクトとは何かを考えました」と話す。これまでの経験から、新店舗のプロデュースや新商品開発といったアイデアは一過性で終わってしまう可能性が高く、本質的な回答にならないと判断。「『一年先を考えるなら、種をまけ。十年先を考えるなら、木を植えよ。百年先を考えるなら、人を育てよ。』という管子の『三樹の教え』にもあるように、100年先まで本気で企業のブランドの在り方を考えるならば、働く人が変わっていくことが重要ではないかと考えました。地方百貨店特有の保守的な傾向も強かったので、まずは社員の意識改革と自由闊達にアイデアを生み出せる環境を一緒に作っていきましょうと提案しました」と岸さんは振り返る。そして、2012年11月に「鶴屋イノベーション・プロジェクト」を立ち上げ、社内説明会を開催。あらかじめ準備しておいた概要をまとめた冊子も配布した。
読みたくなるタブロイド判の報告書
鶴屋は、本当に変わるかもしれない――。鶴屋イノベーション・プロジェクトに対して半信半疑だった従業員の心をつかんだ瞬間があった。それは、全従業員に向けて実施したアンケートの回答をまとめた報告書が配られたときのことだ ...