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企業の姿を体現する言葉とデザイン

企業としての必然性から生まれたキャッチフレーズ「もっとよくしよう。」

トヨタ自動車

周年を迎えた企業を中心に、スローガンやタグラインを見直したり、社内外に向けてブランドブックをつくる企業が増えています。その背景には、変化の多い時代だからこそ、いま自分たちの足元を見直そうという考えがあるといえるでしょう。また、事業領域の広がりとともに、従来のスローガンやブランディングでは収まりきらなくなっている企業も出てきています。そして、かつてのようにCIを新たにつくることがブランディング、ということではなくなりつつあるいま、その在り方や考え方が変わってきました。例えば企業広告で、その企業にとって最適な表現、伝え方は唯一であり、他とは似て非なるものです。よくあるカタチではなく、自分たちにしかないカタチがあるはずだ──。そのことに気づいた企業が、いま新たに自分たちの背骨であるスローガンや理念、そしてブランド全体のデザインを新たな形で見直しはじめています。本特集では、新しい取り組みをはじめた企業を中心に、それぞれの企業あるいはブランドを通貫する言葉とデザインがどのように生まれたのか、その背景とプロセスを取材しました。

企業としての必然性から生まれたキャッチフレーズ「もっとよくしよう。」

トヨタ自動車が今年1 月から日経新聞で月に2回掲載している企業広告シリーズ「もっとよくしよう。」。そこで伝えているのは、技術ではなく、モノづくりに対する哲学だ。

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トヨタ自動車
01 1月に出稿したシリーズ最初の30段広告。

技術ではなく、思想を伝える

「もっと現場を歩こう。すべての答えはそこにある――」。今年1月、トヨタ自動車はこんな言葉から始まるボディコピーと「もっとよくしよう。」というキャッチフレーズを掲げ、企業広告を開始した。以来、毎月2回、日経新聞に15段の新聞広告を出稿。7月からはテレビCMも開始している。同社の企業広告といえば既に「ReBorn」シリーズが展開されているが、このシリーズのテーマは同社が培ってきた「安全」「安心」「信頼」といった技術力イメージの向上。同社に連綿と流れる技術思想を、一般の人にもわかりやすく伝えていくことを目的としている。

「トヨタ自動車といえば、“カイゼン”。そのスピリットは生産から現場に至る社員ひとり一人に浸透しているもので、それがまさにトヨタのDNAでもある。現場のひとり一人が“もっとよくしよう”という現場発想のある会社であること、それこそが一番のトヨタらしさだと考えました」と、CDを務める木村健太郎さん。技術のファクトを伝えるのではなく、その思想を伝えることこそ、トヨタの技術力イメージの向上につながるのではないかと考えたことから始まった。

同社の技術思想を一般の人にもわかりやすい言葉で伝えるべく、コピーライター小西利行さんが書いたコピーが「もっとよくしよう。」だった。「当初はいくつか案を出していて、カイゼンをモチーフにしたコピーもありました。でも、このコピーが出てきたときに、もうこれ以上でもこれ以下でもない。これしかないと思いました」と小西さんは振り返る。木村さん、そしてアートディレクター 秋山具義さんもそのコピーに賛同した。

「これしかないと思った」理由を、木村さんは次のように話す。「これはトヨタという企業のDNAを表わす言葉であると同時に、実はいまの日本に必要な精神であると思ったからです。いまの日本は何かと他力本願になりがちで、自ら率先して動こうという人が少なくなっている。でも、ひとり一人が自分の持ち場や現場でできることをきちんとやって、ひとつ一つ改善していけば、日本はこれからもっとよくなるはず。2020年の東京オリンピックに向けて、まさにいまそのことを考えなくてはいけないときに来ています。これからの日本をよりよい国にするためにはひとり一人がこの精神を持つことが大事になるので、トヨタの想いを伝えることで多くの人々が同調してくれればと思っています」。その思いを凝縮したのが、最初に出稿した30段の広告だ。そんな思いを込めたメッセージをしっかりと読んでほしいと、あえてキャッチフレーズ、ボディコピーの級数をあげたデザインにしている。車は一切出さず、さまざまな人々が一つの方向に向かって走っている様子を描いた。

多くの企業にとって、商品や広告で世の中に見えている部分というのは本当にわずかに過ぎず…

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