クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第67 回目は、日傘作家・デザイナーのひがしちかさんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。
『陰翳礼讃』
谷崎潤一郎(著)
(中央公論新社)
建築、食べ物、器、照明、紙、女性、金色、白色、怠惰、旅、作者の客嫌い、厠等々…美しい事への想いが、確固たる視点で記してある。幾度も読み見返す本の共通点に、毎回得られる新しい発見と感動と知識、あと“勇気みたいなもの”がある。作者の素直すぎる一面とか、少し変人なところが垣間みられて、通り一遍の美の観点ではないところに、この人パンクだわ~。粋だわ~。そしてなんて自然な人だ。と感嘆してしまう。それが私に入った時、“勇気みたいなもの”になっている。そして、本物の日本を私は何も知らないんじゃないかと感じざるを得なくなる良い挫折をくれる。生活及び人生においての活動、振る舞い、すべては本来、美を追求する最高の舞台かもしれない!私はそう受け取ったのである。宇宙の神秘性にも通ずるところがあり、その美とは、果てしなく、しかしすぐ側にあるうっすらとした光と影、かすかに聞こえる音…一見非常にわかりにくい(感じにくい)そういうものを少し感じ取れた時、心を洗われ、そしてあらためて自分を見直し、前を向く。三十歳を過ぎて、自分に奥行きを備えたいと切に思う様になった近年、この本が私にとって心がこよなく落ち着くバイブルとなった。
『フローラ逍遙』
澁澤龍彦(著)
(平凡社)
逍遥とは、「きままにあちこち歩き回る事」の意味だそうで、まさに、“花”のまわりを歩き回って、その何重層にもなっている妖艶さを多方面から謎解きしているかのよう。その動機は、何故こんなに美しく魅了するのだろうか。という想いだろうとつくづく思う。ボタニカルアートと日本画の花も満載で美しく、花のまめ知識本でもあり、そこから掘りさげられてゆく澁澤龍彦ならではの世界を堪能できる。本当に素敵な1冊 ...