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デザインの見方

伝統と革新が同居した稀にみる富久錦のロゴデザイン

石川竜太(フレーム)

富久錦 C.I
アプリケーション例
◯AD+D/北川一成

これは、グラフのアートディレクター・北川一成さんが1996年に手がけた酒蔵メーカー富久錦のロゴです。96年はちょうどわたしがデザイナーとして働き出したころ。オンタイムでこのロゴを見ていたかどうかは、記憶が曖昧ですが、デザイン関連の雑誌か書籍で掲載しているのを見るたびに、その美しさにため息をついていたのを憶えています。

はじめはクラシックで格好良いなぁという印象でしたが、デザインの仕事に関わるようになり17年、いまは「和」の伝統と格式に、控えめなモダンさが見事に融合しているように感じています。わたし自身も酒造会社さんの広告コミュニケーションの仕事をさせていただく中で、経験則からそのすごさが伝わってきました。このデザインの神髄がゆっくりと後から押し寄せ、また確実に自分の中に染みこんできました。おそらく、わたしでは逆立ちしてもつくれないと思います。

なによりすごいのは、飽きがこないデザインであることです。平成の現在ではなく明治時代から酒蔵を営んでいるような威厳と佇まいがこのロゴにはあります。見慣れたものと新しいもの、対局にある二つの要素が同居していて、長い間ずっと傍らで寄り添っていた妻のような存在、そういう錯覚を覚える稀なケースです。

このロゴのフォルムは、日本の伝統を感じさせるシンプルな形状で、ぴぴっとひげのようなものが特徴です。誰も見たことのない未知の「ふ」の文字を作っているんですが、ここからは、もう何も引けないし、何かを足してしまったら壊れてしまう、そんな繊細さで完成しています。

美しい形状だけではなく、その酒蔵の酒造りに対する真摯な姿勢まで感じられるような気がしました。そんなロゴがまとう空気や佇まいみたいなものに惹かれるのです。

いま思えば、今年度JAGDA賞をいただいた酒販店まいどやさんのV・Iも ...

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