今号では、36人のコピーライター、プランナーの皆さんに自身の「コピーの作法」をご執筆いただきました。36人のコピーライター、プランナーの頭の中にある「コピーの作法」をどうぞ覗いてみてください。

不自由なコピーたちへ。
吉岡虎太郎
「コピーのルールはひとつしかない。それは売れるってことだ。」とその男は言った。
「何を書いてもかまわない。アバンギャルドでも、ロマンティックでも、
社会派でも…、商品や企業に何の関係もないことでも全く問題ない。
ただし、そのコピーによって売れさえすれば、の話だ。」
その男の言葉はひどく退屈なことを言っているようにも聞こえたし、
核心を鋭く突いているようにも思えた。
「逆に言えば、どんなに面白かろうが、話題になろうが、
売れなければそのコピーに価値はない。」
「売れれば何でもいいのか?」
「原則的には、そうだ。何でもいい。お前の自由だ。」
男は強い酒をぐっと仰いだ。
「だが、何でもいいで売れるほど世の中は甘くない。」そう。その通り。
それから10年近くの年月、僕は「売れる」という、
ただその一点をかなえるためにずいぶん苦しめられることになる。
移り気な消費者意識を捉えるための調査に立ち会い、
売り上げのデータ推移を丹念に読み込み、
開発者の思いを聞きに遠い工場へ足を運んだ ...