米国アカデミー賞短編アニメ賞に輝いた『つみきのいえ』に続き、ロボットが制作、IMAGICAがポストプロダクションを担当した新作アニメ『ゴールデンタイム』が、一般社団法人日本ポストプロダクション協会主催のJPPA AWARD2014(一般部門)にて経済産業大臣賞と音響技術グランプリをW受賞した。
望月資泰(もちづき・もとひろ)
ミキサー、クリエイティブプロダクションユニット五反田スタジオチーム。1992年にTVT AKASAKA入社。その後、2001年IMAGICAへ。主な仕事に日立製作所 企業CM「1/hitachiシリーズ」、映画『つみきのいえ』『ゴールデンタイム』、JRA競馬博物館「チャッピーとエミの大冒険」(立体全周映像)。『ゴールデンタイム』にて、第18回「JPPA AWARDS2014」経済産業大臣賞/音響技術グランプリを受賞。
物語に自然と入るように音は主張しすぎない
『ゴールデンタイム』の主人公は60年代製の家具調テレビ。舞台は高度経済成長期からバブル期に向かっていた80年代の日本。ある日、廃品置き場に捨てられたテレビが、その事実を受け入れられず脱出を試みるが…時代に取り残された廃品たちの数奇な運命を描いた約23分間の悲喜劇だ。脚本・監督は文化庁メディア芸術祭をはじめソウル国際カートゥーン&アニメーション映画祭など国内外の賞を受賞しているロボットの稲葉卓也さん。その評価は手描きのアニメ映像技術にあるが、今回の受賞では作品のクオリティを高め、海外に通じる作品に押し上げたその高い音響技術が評価された。セリフやナレーションがないため、登場キャラクターたちはその行動や音楽、効果音で感情や気持ちを伝えている。これらの音響関係は劇伴の作曲家・アニメ作家の鳥田晴奈さんとSEを担当したONPaによるこだわりの効果音により形成される。そしてこれら全ての音を束ね、映像とバランスよくシンクロさせたのが、IMAGICAのミキサーの望月資泰さん。望月さんは、今回のアニメ作品をはじめ、映画・テレビやCMなどさまざまなジャンルの作品を音響技術の部分から携わっている。
「もっとも気を遣うのは映像の邪魔をしないこと。劇伴や効果音が主張しすぎず、鑑賞者が物語の世界にスーっと自然に入っていけるようにプレビューを見ながら何度も手直しをしました」。“感じないように感じさせる”ことを心がけたと望月さんはいう。
監督が表現したいことに寄り添う
とくに本作のようなノンバーバルでは音が作品の生命線を握る。同じ音でもアレンジによって、悲しそうに聞こえることもあれば、楽しく聞こえることもあるのだ。「監督の意図を汲み取りつつ、鑑賞者に楽しんでもらうためにバランスを考えながらミキシングしました。『ゴールデンタイム』は世代によって受け止め方も異なるだろうし、同じ人でも気分によって見方も変わります。見る人を意識しながらミキシングした結果、いろいろな解釈ができる奥行きのある作品になったと思います」。
望月さんがつねに心がけていることは「映像に伴うさまざまな“音”によって監督が表現したいことに寄り添うこと」だという。
“映画は監督のもの”とはよく言われるが、望月さんのような熟練の職人たちによる技術と熱意が、映画に彩りと奥行きを与え、完成度を高めていることを忘れてはならない。