異業種コンテンツに飛び込む武器「パイロット」の可能性
映画や番組の制作前に試験的につくられる短い映像「パイロットフィルム」をご存じでしょうか。名作映画から最新作まで、そうした貴重な映像を集めた映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」が、2024年12月に開催されました。発起人を務めたのは、Whateverの川村真司さんと、CHOCOLATEの栗林和明さん。
青山デザイン会議
サービスデザインとは、生活者が感じる体験価値を重視して、個々のタッチポイントのデザインにとどまらず、事業としてサービス全体の実現性に言及したデザインをすること。ユーザーに一連のサービス体験を提供することであり、米国ではデザインコンサルティングを中心に広まっている考え方です。近年企業が謳ってきた「体験価値」をより深化させるものといってもいいでしょう。この背景には「人が求める価値」が多様化し、企業はそれにより応えていかなくてはいけなくなっていること。そして、いまや製品だけではなく、そこに付随するサポートやケアといったサービスも購入の際の決め手になっています。つまり製品でいえば店に一歩足を踏み入れた瞬間から出る瞬間まで、その一連の体験の中で満足を得たいと考えています。こうしたことが「サービスデザイン」という考え方を促進しています。
日本でもこの考え方が少しずつ浸透してきていますが、その定義はまだ曖昧で、企業ではどの部署がこの考え方を採用し、実践していくのかも見えにくいです。また、目には見えない、形のないデザインであるだけに、それを提供する顧客にどのように伝えていくかも課題のひとつです。サービスデザインをどのように社会や企業に浸透させていくべきか。日本における先駆者たちに語ってもらいました。
武山: サービスデザインの定義は、専門的に取り組んでいる人たちの間でも、まだ揺れているところがあります。そのため、現時点での私自身の考えになります。これまで、日本のビジネスの多くは「企業が価値をつくって、顧客に提供する」という発想が中心でした。しかしいまは「顧客による価値の実現を企業がどう助けるか」という視点に切り替える必要性が出てきています。つまり、サービスの提供側と受ける側とが、価値を共につくっていく、「価値共創」が重要になってきています。その価値共創のかたちをどうつくっていくかが、サービスデザインのおおまかな目的だと捉えています。
丸山: 武山先生とは3年ほど前から共同研究をしています。お客さまが機能を求める時代から、経験を求める時代に変化している中、一連のエクスペリエンスと提供するための仕組みをセットで考えるのがサービスデザインだという認識でいます。価値にかたちを授けるというデザインの本質は変わりません。ただ見えないものをデザインしていくので、定義を共有しにくい感じはありますね。
武山: その点に関連してサービスデザインの特徴となるのが、オーケストレーションという発想です。各種のタッチポイントを横断する顧客体験の一貫性、そしてフロントステージの顧客体験とそれを支えるバックステージのプロセスやシステムとの整合性、さらにさまざまなステークホルダーの利害関係の調整にいたるまで、さまざまなレベルでの調和をデザインの視野に入れていく。その中で新しい価値共創をどうつくっていくかが、サービスデザインのミッションだと考えられます。
渡邉: いま注目されていて、同時に成長のさなかにある分野ですよね。人によって定義が異なるからこそ楽しい。僕は日本のサービスデザインの原型は茶の湯にあると考えています。お茶、菓子、器や道具だけでなく、花、庭、建築…とすべてが体験をつくっていますよね。総合芸術としてあらゆる要素が組み合わさっている。ゴールがひとつあるのではなく、体験すべてがストーリーになっている魅力が、サービスデザインと共通しています。
丸山: 安易に活動の範囲を決めてしまったら…