クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第64回目はNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員の畠中実さんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。
『ロビンソン夫人と現代美術』
東野芳明 著(美術出版社)

最近では60年代の批評選集が出版されるなどしている戦後日本美術批評界の「御三家」のひとり(ほかは針生一郎と中原佑介)東野芳明は、僕が多摩美を受験するきっかけとなった人と言っていいかもしれません。ブライアン・イーノを通じてダダを知り、東野先生の『マルセル・デュシャン』や『ジャスパー・ジョーンズ』といった作家論に出会って、いわゆる現代美術といったジャンルに関心を持ったのが高校生のころでした。
東野先生は、多くの作家論を書いていて、『つくり手たちとの時間』のようなアーティストたちの生の発言を引き出した対談集もありますが、なにしろ、あるアーティストの作家史のような、活動の変遷なども含みでアーティストのことを知りたいと思っていた、一応知識欲の旺盛な美大に入りたての大学生には格好の教材でした。軽妙洒脱でウィットに富んだ作家との対話や分析。目からウロコの落ちるような解釈などなど。なにもかもが新しくめずらしかったころ、美術をよりおもしろく感じさせてくれたのがこの本です。
表紙になっているローリー・アンダーソンと十数年後に一緒に仕事をすることになるなんて、当時の自分にはまったく想像すらできなかったのでした。
『なぜ、植物図鑑か』
中平卓馬 著(ちくま学芸文庫)

僕が大学生のころ、まだ今のようには復帰していなかった写真家/批評家の映像論集。それは、ある意味では ...