「企業そのものの存在意義」を見つける。自分たちの足元にあるものをいま一度見直してみる必要がある――磯島拓矢さんはそう話す。
電通 磯島拓矢(いそじま・たくや)
電通コミュニケーション・デザイン・センター クリエーティブ・ディレクター/コピーライター。一橋大学卒業後、電通入社。これまでの主な仕事に、J-WAVE、日立製作所、ソニー、旭化成、キリンビール、スカパー!など。著書に「言葉の技術」。
企業とはソーシャルな存在である
2012年に展開されたP&Gのグローバルキャンペーン「Thanks Mom(サンクス・マム)」、これはいろいろな意味でショックを与えたと思います。
メッセージは、「P&Gはお母さんの味方である」。企業としてのあり方を再定義すると同時に、世界中のお母さんたちの気持ちとつながり、ある種のコミュニティをつくってしまった。企業広告の基本をやりながら、ユーザーと関係をつくり、しかも「for good」も実現している。それを見て、「うちもやってみたい」と思われた宣伝担当者の方は多かったのではないかと思います。僕も実際に何人かの方からそういう声を聞きました。
感動的かつヒューマンな表現やアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの演出による映像の質の高さもこのCMの大きな魅力ですが、企業の宣伝担当者の方がこの広告に惹かれた一番の理由は、生活者とつながった感覚、でしょう。これまでは「お客さまの声を聞いて、私たちはこう応えます」というリレーションは主にSNSで行われていたわけですが、「Thanks Mom」はマス広告で、企業哲学一発で、お客さまとつながれることを証明してしまいました。アウトプットは全く違いますが、僕が昨年担当していたキリン「のどごし〈生〉」の「夢のドリーム」も、まさにお客様とどうつながるかということを考えて生まれた広告でした。企業のこうした志向は強くなっていると感じています。
「Thanks Mom」は「企業哲学は何だっけ?」という意識を改めて芽生えさせるきっかけにもなりました。いまCMを中心に広告はソーシャルメディアで話題になることが重要と言われますが、その仕組みを考える以前に企業そのものがソーシャルな存在であることを、世の中にきちんと伝えられているのか。商品情報だけではなく、社会と自分たちがどう関わっているのか ...