01 「リモートコントロール・ツーリスト」のWebサイト。キャンペーン終了後もメルボルンの観光プロモーションサイトとして更新されている。
http://remotecontroltourist.com/
風変わりな「観光代行業」
行ったことのない街を知りたいとき、まずはガイドブックやインターネットで写真を観たり情報を読んだりして想像を膨らませる人が多いだろう。ここメルボルンでは、想像するだけではなくリアルタイムでしたいことを実際にリクエストでき、それを代わりにしてくれるという、かなり個性的なツーリズムキャンペーンが昨年の10月9日から13日までの5日間だけ行われた。その名も「リモートコントロール・ツーリスト」だ。
ビクトリア観光局が行ったこのキャンペーンは、期間中2人の男女が「リアル・ツーリスト」として小型カメラとマイクが着いたヘルメットを装着し、自転車と足を使ってメルボルンの観光名所やいま流行のレストランやバーなどを視聴者のリクエストに応えながら訪ね回るのだ。5日間だけで158カ国、世界の3888都市からアクセスがあったという。
期間中に来たリクエストの数は、なんと8700以上。それもそのはず。FacebookとTwitterがコントローラーとなり、世界のどこからでも彼らに「してほしいこと」を気軽にリクエストできたからだ。「お店のスタッフとハイファイブ(ハイタッチ)して」「ビルの屋上へ行ってみて」や「そこのコーヒーが美味しいので飲んでみて」「次の路地のグラフィティがいいよ」など、リクエストの内容はさまざまだ。視聴者からのリクエストにリアル・ツーリストが応えることによって、このキャンペーンの可能性がどんどん広がり、メルボルンの街を多彩な視点から見せることができた。
キャンペーンのもう一つの成功の鍵は、リアル・ツーリストの2人のパーソナリティだ。世界中の視聴者の目となり耳となり、リクエストに応えながらショップやレストランの雰囲気や料理の味を伝えてくれたり、街の人々と楽しい会話をしたりと、彼ら自身もかなりのエンターテイナーである。そんなフレンドリーなリアル・ツーリストたちの目の前で起こっている出来事が映像としてライブストリーミングされ、世界中の視聴者をまるで実際に街を探検している気分にさせてくれた。
世界中からのアクセスで大反響を呼んだこのキャンペーンは、結果としてメルボルンの数々の素晴らしいビジュアルの集大成となり、リモートコントロール・ツーリストのサイトは、現在ではメルボルンのプロモーションサイトとしての役目を果たしている。音楽やアート、食文化を中心に日々めまぐるしく変化を遂げているメルボルン。今後このサイトにはもっとたくさんの街の魅力が詰まっていくに違いない。
梶原沙央里(かじわら・さおり)1983年静岡県生まれ。メルボルン在住。2009年スウィンバーン工科大学コミュニケーションデザイン科卒業。デジタルエージェンシー勤務を経て、現在グラフィックデザインのほか、MVや「Typography furniture」などの制作を手がける。東京インタラクティブアドアワード2011 Google innovative広告部門で入賞した「Eメールさん」のデザイン担当。http://cargocollective.com/saorikajiwara 連載執筆は今回が最終回となります。ご愛読、ありがとうございました。 |