上海での5年半を通じて得た視点
今回は最後の連載ということもあり、私の仕事に近いところでのお話をさせていただきたい。
中国だから、という訳ではないが、国外で広告デザインの仕事をしているとアダプテーションという概念がいかに大切かを思い知らされる。
国内外でマーケティング活動をしているブランドにとって、イメージ構築のひとつのポイントは、ブランドの顔になるキークリエイティブが、国内市場だけでなく、海外市場にもアジャストできるコンセプトを持っているか否か。これからのクリエイティブワークは、こうした考え方を持って臨まなければならないと思う。
それは単純に日本語を中国語や英語に変換するということではなく、そのブランドが築いてきた本質、アイデンティティを共有し、ローカルコンシューマーの趣向やニーズに応えるデザインを改めて創りだすということ。つまり本来の意味でのローカライズであり、グローバルブランディングの一環として個々のクリエイティブとデザインワークをとらえることだ。
その一例として、明治ブルガリアヨーグルトのパッケージデザインを紹介したい。日本では言わずと知れたヨーグルトのトップブランドであり、そのパッケージは日本の人々に愛され支持され続けている。ブランドの資産価値を残しながら、時代のニーズに合わせてデザインをアップデートし続け、長い年月をかけて洗練されたパッケージ。それは国をまたぐ力をもったロングライフデザインだ。
だからこそ、そのパッケージデザインのアイデンティティを壊さず、中国市場ならではの趣向やニーズに馴染むよう、何を残して、何を変えるかを徹底的に考え、アダプテーションしていくことで、ブランドイメージもグローバル化していける。
上海に渡り約5年半。日本の外で暮らしながら実感したのは、グローバルで通用するブランドアイデンティティを確立することの必要性、そして難しさだった。日本企業の海外進出が進む昨今、日本の中でクリエイティブの仕事をする人にも必要な視点だろう。
廣田真也(ひろた・まさや)grand design (Shanghai) Ltd. Creative Director。1979年生まれ。東京の広告企画制作プロダクションを経て、2009年grand designの立ち上げに参加。上海在住。12年から1年間掲載させていただきましたが今回で最後。ご愛読本当にありがとうございました。 |