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特集 先進企業がつくる世界のヒット動画

ブランデッド・コンテンツは人々の隣で語る

スコット・ドネイトン / 原野守弘



03 メルボルン鉄道「Dumb Ways to Die」

何が好きかでブランドを語る

アップルやナイキ、P&Gなど、優れたコミュニケーションを行うブランドのコンテンツには共通点がある。ビジョンに従い、自身が是とすること、理想、幸せなあり方だと思うことなどを表現する点だ。

「これはブランデッドコンテンツに限らない、広告の基本」と話すのは、NTTドコモ「森の木琴」やメニコン「Magic」などを手がけ、海外広告賞の審査員も歴任するクリエイティブディレクター原野守弘さん。「彼らは、人々と向かい合って『私はこんな人間です』と自己紹介するのではなく、隣に座って『私が好きなモノはこれです』と表現しています。だから『私もそれが好き』という返事や『そういうモノを好むブランドってカッコイイね』という言葉が返ってくる。共感とは、そういうことだと思います」。

豪メルボルン鉄道の青少年向け安全啓発アニメーション「Dumb Ways to Die」が多くの人に受け入れられたのも同じだと原野さんは言う。この動画は「電車事故で死ぬなんて、バカげたことなんだ」というメッセージを、「宇宙でヘルメットを外す」「瞬間接着剤を飲む」「スズメバチの巣で遊ぶ」といったおバカな行動に交えて表現したもの。カワイイけれどグロテスクに死ぬキャラクターや、覚えやすい歌が人気となり、12月時点で約6700万回再生された。

「公共インフラである鉄道会社だけれど、実はこんな表現が好きなんだ、と話しかけた。その表現に共感して、パロディ動画をつくったり、学校で踊ったりする人たちが現れてきたわけです。ブランドが人々に語りかけるべきものは、『Who I am』ではなく、『What I Love』なのだと思います」。

2013年、世界最大の広告賞カンヌライオンズでブランデッド・コンテント&エンターテインメント部門審査員長を担当したスコット・ドネイトンさんも「ブランドは、自分自身について語るのをやめるときがきた」と指摘する。ドネイトンさんは創設2年目の同部門で「ブランデッドコンテンツは、ストーリーが最も重要だ」との審査方針を定めた人物。広告会社ユニバーサル・マッキャンのチーフ・グローバル・コンテント・オフィサーを務める。

「人々は、価値を感じないメッセージを、ますます無視するようになりました。押しつけがましいコミュニケーションは終わり。ブランドは、人々が話していることに耳を傾けるべきでしょう。そして、会話に何か意義深いものを提供できるかどうか、それをブランドから導き出せるかを考える必要があります」。

手法の自由化から目的の自由化へ

13年9月、ブラジル中をこんなニュースが駆け巡った。現地の大富豪チキーニョ・スカルパさんが、「エジプトのファラオが王墓に宝物を一緒に埋めた逸話にならって、私もベントレーを庭に埋める」と、自身のFacebookページに投稿したのだ。5000万円を超える高級セダン、ベントレー・コンチネンタル・フライング・スパーをムダにする振る舞いに、ソーシャルメディアでは反発の声が上がり、テレビや新聞各紙も指弾する事態となった。

しかし同月20日、埋葬パフォーマンスを実施するも、埋める寸前にストップをかける。スカルパさんは「皆に言いたいことがあるから」と邸宅内に入るよう記者やリポーターらをうながすと、こう話し始めた。

「非常に多くの方が、ベントレーを埋めようとしたことを非難しました。しかし、皆さんは、ベントレーなどよりも、もっと価値のあるものを、毎日埋めていることを知っていただきたい」。そこで彼の背後で降ろされた幕には、臓器提供の意思表示をしようとのメッセージ。毎日、誰かを救える臓器が無為に葬られていることを伝えるPR施策だったのだ。ブラジル世論は反転、慈善団体への寄付や、提供の意思表示登録をする人がそれまでの数倍に跳ね上がった。レオ・バーネットのサンパウロ支社LeoBurnett Tailor Madeが手がけた施策だ。

「何がしたいのかがはっきりしていることが大切」と原野さんは言う。これまでのトレンドは手法の自由化だった。コンテンツだけでなく、ビール会社が栓抜きを配るようなブランデッド・ユーティリティなど、ブランドと何かを結びつけたコミュニケーションは多く行われてきたことだ。時計のブログパーツをWeb広告に変えたユニクロの『UNIQLOCK』も同じ系譜。広告賞もこの動きに合わせ、手法別に部門を立ち上げた。「けれど、いま『目的の自由化』が起きはじめています。コミュニケーションの目的自体の競争。2013年はソーシャルグッドの年などと言われましたけど、それは数多ある目的のひとつで、ソーシャルグッドならすべてよし、ではない」(原野さん)。

04 ブラジルの大富豪チキーニョ・スカルパさんが、自身のFacebookへ「庭にベントレーを埋める」と投稿した際の写真。

言葉に信ぴょう性を与える行動

コミュニケーションのゴールについては、ドネイトンさんも警鐘を鳴らす。「ほとんどのブランドが、『ファンの獲得』をゴールに行動しています。彼らは、人々に『お願いですから"いいね!"を押してください』と懇願しているだけ。そんなブランドを、誰が支持したいと思うでしょうか。そうではなくて、ブランドの行動に裏打ちされた言葉で語りかけましょう」。

ドネイトンさんは、成功したブランドのひとつとして、メキシコ料理ファストフードチェーンのチポートレを挙げる。11年の「Back to the Start」や、13年の「The Scarecrow」の2本のCGアニメが好評を博した。「2本とも、サスティナブルな農業について訴える、上質なアニメーションです。ただし重要なのは、チポートレは、このアニメを手がけるだけの信ぴょう性を備えたブランドであるということです」。

チポートレは、実際にサスティナブルな農場から買った素材でメニューを構成したり、家族経営農場へ寄付している。年間を通じて、有機栽培の利点を啓発するイベントの開催にも積極的だ。「優秀なブランドは、自分たちの理想は何か、何のために戦っているのかをきちんと自覚しています。だから、どんな行動が自分たちの言葉に確かさを与えるかもわかっているわけです。ブランドは、自分たちが語るストーリーを生きるべきです」(ドネイトンさん)。

インテルと東芝が送り出した、「Inside Film」シリーズを旗手に、映画業界やテレビ番組制作のスタッフらも、広告コミュニケーションの領域で、その才能を発揮しようとしている。「そういう中で、コミュニケーションができる最大のことは、やはり人に好きになってもらったり、人に尊敬してもらったりすることだと思うんです。愛と尊敬は最も得難いものですが、その分クリエイターとしては、そんなコミュニケーションを手がけられれば、とても嬉しい。そのためには、どんな手法でも、どんな目的でもいいのですが、最終的には、コンテンツと向き合う一人ひとりに、何ができるかを考えてつくっていくことなのだと思います」(原野さん)。

ブランドが好む「何か」を、感動させたり、あるいは驚きを与えたりする表現にする。その「何か」を通じて、ユーザー一人ひとりと通じあっていく。コンテンツの送り手と受け手をフラットにしたオンラインは、ブランドと消費者が隣り合って同じものを"愛でる"、そんな世界を生み出した。



05 Chipotle「Back to the Start」

01 Scott Donaton
Universal McCann チーフ・グローバル・コンテント・オフィサー。「Advertising Age」「Entertainment Weekly」編集者、発行人を経て2009~13年は自身のコンテンツ開発会社Ensembleを経営。その後ユニバーサル・マッキャンに移籍。L'Oreal, Johnson&Johnson,BMWなどをクライアントに持つ。カンヌライオンズ2013・ブランデッドコンテント&エンターテインメント部門審査委員長。12年には、Denny'sのWebコンテンツシリーズ「Always Open」でブロンズを獲得している。

02 原野 守弘(はらの・もりひろ)
もり クリエイティブディレクター。経営戦略や事業戦略の立案、製品開発、プロダクトデザイン、メディア企画、広告のクリエイティブディレクションまで幅広く手がける。電通、ドリル、PARTYを経て、2012年11月、株式会社もりを設立。代表的な仕事に、NTTドコモ「森の木琴」、メニコン「Magic」、本田技研工業「Honda Green Machine」など。「TED: Ads Worth Spreding 2012」ほか、D&AD、カンヌライオンズ、スパイクスアジアなど国内外で受賞多数。13年 D&AD審査委員長、カンヌライオンズ・イノベーション部門審査員などを歴任。

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