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TCC賞2013 特別対談

佐々木宏×福里真一対談「いいコピーって何だったんだろう。」

佐々木宏×福里真一

2013年度のTCC賞の審査テーマは「いいコピーって何だったんだろう。」。このテーマのもと行われた審査を審査 委員長である佐々木宏さんと審査員の福里真一さんが振り返りました。

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佐々木 宏(ささき・ひろし)
コピーライター、クリエーティブディレクター。1954年生まれ。慶應義塾大学卒業後、77年電通入社。2003年シンガタ設立。これまでの仕事に、白戸家、smapなど、SoftBankの全キャンペーン、サントリー「BOSS」宇宙人ジョーンズシリーズ、「歌のリレー」、トヨタ自動車「ReBORN」「ドラえもん」「CROWN」「TOYOTOWN」、江崎グリコ「オトナグリコ」、富士フイルム「お正月を写そう」ほか。

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福里真一(ふくさと・しんいち)
1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業後、92年電通入社。2001 年よりワンスカイ所属。主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、富士フイルム「フジカラーのお店」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、BOSS贅沢微糖「贅沢していい人」、ダイハツ「日本のどこかで」、ENEOS「エネゴリくん」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、東洋水産「マルちゃん正麺」ほか。宣伝会議より初の著書『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』刊行。

コピーで呼ばれる広告を

福里▶ 今年、東京コピーライターズクラブ(TCC)が審査を行うTCC賞の審査委員長選出のルールが変わりました。同じ人が連続してはできなくなり、長年審査委員長を務めた仲畑貴志さんを除く全会員を対象に投票を行った結果、選ばれたのが佐々木宏さん。コピーライターとしての代表作が「ダメ。ゼッタイ。」や「ボス、飲む。」である佐々木さんが、TCC会員の皆さんに支持されていたのはちょっと意外だったのですが...。そして、佐々木さんがはりきって今年の審査テーマとして掲げたのが「いいコピーって何だったんだろう。」です。

佐々木▶ もっといいコピーも書いているんですけど(笑)。近年、TCC賞は福里くんの宇宙人ジョーンズや澤本嘉光くんの白戸家、九州新幹線のCMが受賞し、企画の面白さに注目が集まりました。その結果、本来のコピーが立たなくなり、コピーライターは肩身が狭くなってしまった感があったんです。

あるとき1983年のコピー年鑑を開いたら、その年のグランプリは、魚住勉さんの「水がある、氷がある。」(サントリー オールド)と小野田隆雄さんの「夏ダカラ、コウナッタ。」(資生堂)、特別賞が糸井重里さんの「おいしい生活。」(西武百貨店)。どのキャッチフレーズもかっこいいし、CMもセンスがいい。そして何よりも、広告の真ん中に言葉がある。なぜいまの広告は変わってしまったのかと思いながらも、振り返ってみると福里くんは「このろくでもない、すばらしき世界。」というコピーを、澤本くんも「予想外」という絶妙なコピーを企画と共につくっていたではないか――。CMにもいいコピーがあるのに、審査のときにそのことが評価されていなかった。そこに近年のTCC賞の課題があるのではないかと思いました。そこで今年は人の心に刺さる言葉を探し、その言葉を書いた人をきちんと評価しようと決めました。

福里▶ 「いいコピーって何だったんだろう」と考えたとき、僕はその広告がコピーで呼ばれることが大事だと思っているんです。世の中の人たちが話題にするとき、例えば「おいしい生活の広告」とか、「そうだ 京都、行こうのCM」という。その呼び名を自分で考えることができるといいなと思っているし、かつての広告はそういうものが多かった気がするんです。

今年受賞したトヨタ自動車クラウンの広告は、前田知巳さんの「権力より、愛だね。」というキャッチフレーズと、澤本さんの「入口だよ、未来の。」というセリフが受賞コピーに選ばれていますが、実際にこの広告がなんと呼ばれているかといえば「ピンクのクラウンの広告」だなあ、と。それもまたコピーなのかもしれないですし、審査員の中には「ピンクのクラウン」がグランプリでもいいのでは?という話をしていた方もいたんです。

佐々木▶ 「ピンクのクラウン」を考えたのは僕なので、グランプリを獲れたかと思うと、ちょっとくやしいですが(笑)。広告はクラウンが生まれ変わったことを大きなスケールで示すものにしたいと思い、前田くんに「モーレツからビューティフルへ」(1971年・富士ゼロックス)のような根源的なコピーを書いてほしいとお願いしました。

「権力より、愛だね。」というコピーにほれ込んで、それを澤本くんに渡したら、案の定「どこかに入れなくてはだめですか」。優秀なプランナーは自分でコピーも考えますが、澤本くんはむしろいいコピーはどんどん使う人。ただ「権力より、愛だね。」は太くて強いので、CMでは使いづらいのは確かでしたが、きちんと応えてくれました。

これまでの経験からいうと、大黒柱となるキャッチフレーズがあると、クライアントの納得度が高いし、その言葉をベースに面白くジャンプできる。僕が審査委員長として伝えたかったのは、CM、グラフィックにかかわらず、キャッチフレーズが広告にとって重要であるということ。クライアントも優秀なプランナーに頼んで、企画が面白かったらOKとなりがちですが、もっとコピーを大事にすべき。今回の審査で、かつてのようにコピーがあってCMがあるということを当たり前にしたかったし、糸井さんのように「あのコピーを書いた○○さん」と言われる人をもっと世の中に出していきたいと思ったんです。

福里▶ コピーが大きくあると、つくり手としても迷ったときに、「この広告はこれを言いたかったんだ」と確認することができます。佐々木さんの仕事の場合は特に、風呂敷を広げるだけ広げて、最初に見失うのが佐々木さんだったりするので...。クライアントも僕たちもみんなのよりどころとしてコピーがありますね。ちなみに受賞作品で間違いなくコピーで呼ばれる広告はホンダの「負けるもんか。」ですね。

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