住み替えに悩む人々を描いた、三井のリハウスのWebムービー。第53回ACC賞ゴールド、消費者のためになった広告コンクールWebサイト部門最優秀賞受賞の今作は、博報堂のクリエイティブディレクター黒田康嗣さんの、生々しい心の動きを追うていねいなコピーが見る人の共感を呼んだ。
影を描くから明るさが引き立つ
1分間、ほぼ全編にわたって続くナレーションで、不動産売買に直面した人々の心情を描いた三井のリハウスのWebムービー「みんなの声鉛筆シリーズ」。その端々には「結論としては、逃げたい」「同居がイヤだ、と言ってるわけじゃないの。でも同居していいとはなかなか言えないの」という生々しい声が織り込まれている。
コピーや企画を手がけた、博報堂のクリエイティブディレクター 黒田康嗣さんはこう話す。「僕の言葉だと『エグい』という言い方になりますが...生活者の本当の気持ちに近づくためには、ときに辛らつでダークな心の領域から目をそらさず、人間の生々しい部分を取り込むことが大切なのだと思います。影があるから、本来描きたい明るさが引き立つのではないでしょうか」。
不動産売買にまつわる悩みを描くにあたり、ディテールを追求した点が、今作の特徴。例えば、成人した娘とその母が一緒にマンションを買う「母と住む」篇。結婚して出て行くならローンは?母の老後は一人暮らし?...と込み入った想像をさせる状況を描いた。「生活者の悩みや課題を取り上げる際、表層にとどまると、真実味のない表現になってしまう。本質的なディテールを選び、言葉をつむいでいきました」。
さまざまなものが生活者・顧客の心理を探るヒントになる。「たまたま演出家の舟越響子さんがくださった角田光代さんの短篇集『マザコン』を『母と娘』篇を書く際に読み返したり、経済誌の『相続』特集をを参考にしたり。人の暮らしについて、普段から仕事仲間と話すのも大切ですね」。