
『胞子文学名作選』
田中美穂編(港の人)
本書は既刊の『きのこ文学名作選』の姉妹本。さまざまな作家が書いた胞子に関連する作品を集めた書籍だ。3000部限定で完売した「きのこ文学」が欲しいという声を受けて制作を始めた。「当初は胞子文学らしさを求めて、前作と変えていこうと思ったのですが、“『きのこ文学名作選』を買えなかった人”に見つけてもらいやすく、“既に買ってくれた人”にもまた買ってもらえる本と考え、カバーには前回と全く同じヌキ型を使い、穴をあけるプランに到りました」とデザイナー 吉岡秀典さん。
カバーはクラフト紙にロウ引き。穴からのぞく銀箔はツバメ返しという手法で通常の箔とは違う質感を出した。さらに苔研究家でもある編者が苔の標本袋に書いた学術名、採集場所などの文字をカバーに使用した。「いろいろな本文用紙を使っていますが、胞子文学では目には見えにくい胞子の存在感を際立たせるために、半透明で独特の質感をもつロウ引き紙や、日常生活で接しているけれど存在感の薄い封筒の中の紙、凹凸のあるクッション材などを使用しています」。細かく手を加えた結果、唯一無二の存在感の本となった。

ショッピングバッグ
(伊勢丹)
10月末、伊勢丹にオリジナルタータン「マクミラン/イセタン」を使ったショッピングバッグがお目見えした。1958年頃から使われていたタータンの原点に返り、表面のロゴはバッグや洋服のネームタグのように内側につけた。「伊勢丹のショッピングバッグは商品を入れるだけのものではない。ましてや広告でもない。お客さまお一人おひとりのファッションアイテムである。今回のリニューアルでそのことがより明確になりました」と、同社宣伝部本社担当部長 西村文孝さん。
同社は昨年スコットランド・タータン協会主催の「タータン・アワード」のパッケージ部門で受賞。これを機に、オリジナルのタータン布地を織り、スコットランドタータン登記所に正式登録した。スコットランドにおいて、タータンは家紋のようなもの。新たに布地を織ることは、同社にとって呉服屋時代から続く企業理念や“ファッションの伊勢丹”という原点に立ち返り、自分たちのアイデンティティを見直し、さらに未来をも見据えた取り組みとなった。今後はオリジナルタータンを商品のほか、ブランディングツールとしても展開していく考えだ。

立花ハジメ「Monaco」
(traffic)
ミュージシャンであり、グラフィックデザイナーでもある立花ハジメさんの新作「Monaco」は、蛍光ピンク、グリーンの六角形のピースが6個収まったプラスチックケースのパッケージ。このピースの一つがUSBメモリになっており、12曲の楽曲、初期マッキントッシュにデフォルトで入っていたフォント「Monaco」をリデザインした「Monaco Regular」と「Monaco Light」、デジタルライナーノーツ、そして新フォントを使用した100種類のデザインインスタレーション事例が収められている。「コンテンツはCDにすると4枚組になる分量。音楽をダウンロードして聴くようになり、もはやCDという時代でもない。その形態にとらわれる必要もなかった」と立花さん。
メディアがUSBメモリとなれば、それをどこかに収めればよい。形態・形式は自由になり、どんな形にすることも可能だが、立花さんはグラフィックデザイナーの立場からパッケージのあり方を考えた。そしてUSBメモリの厚さ(11mm)と同じプラスチックケースを見つけたことで、それをデザインの条件とし、その中に入れる素材とデザインを検証した。
ケースへの入れやすさを考え、弾力性のある樹脂を選択。それを使って、以前から好んで使っていた六角形をモチーフに、パズル型ピースを制作した。できあがったピースをプラスチックケースの中にどのように並べるかをシミュレーションし、13種類の並べ方を見つけた。今回、そのうち6種類が販売されている。「パッケージに入っている並べ方が絶対ではないので、自分の感覚で好きなように組み合わせてほしい」という。
立花さんはこのUSBメモリのパッケージを自分の作品だけに使うのではなく、新しいプロジェクトとしてミュージシャンやアーティストにフォーマットを提供していく考えだ。DEVOやトムトムクラブなど国内外のミュージシャンが現在、活用を検討している。「ピースの色や組み合わせを変えると、また違う見え方になります。レコード、CD、データと音楽を聴くメディアのパッケージは変化してきたけれど、その新しい形の一つとして展開していきたいと思っています」。
「Monaco」は500個限定の完全生産限定盤。立花さんのオフィシャルサイトのほか、11月から始まるツアー「ギャラリアプロチア」の東京、京都会場でも販売される。また11月からのライブの収録音源も、来年にはこのパッケージで発売される予定だ。

ROOMBLOOM
「ROOMBLOOM」は、日本ペイントの住宅内装用塗料を核とした新ブランド。「RE-PAINT YOURLIFE―色から暮らしを考える」をコンセプトとし、女性をメインターゲットにDIYとは違うペイントの取り入れ方を提案している。
このブランディングを担当したminnaは、まさにペンキを「塗りはじめる」その瞬間をブランドロゴとした。そして、アイデンティティとなる色はあえてつくらず、その人の暮らしによって変わる、色が持つ懐の深さを表現。パッケージにもその考え方を反映し、さまざまな色のロゴを全面に並べた。商品成分や使い方などは背面に収め、正面から見えない位置でまとめている。
既存パッケージは中に入っているペンキを蓋に1滴たらすことで色を表示している。このパッケージもその慣習を踏襲。メーカーの生産ライン、現場が共に無理なく実施できるよう、蓋の部分に色のないロゴをプリントしたシールを貼り、そこにペンキをたらせるようにした。
同社では10月に新宿にアンテナショップを設けた。今後、こうした場を活用し、消費者とペンキの距離を少しでも縮めていきたいと考えている。

THE HIGHWAY STORE
UNITED ARROWS LTD.
清水店
2011年、ユナイテッドアローズは海老名サービスエリアに高速道路店舗「THE HIGHWAYSTORE UNITED ARROWSLTD.」をオープン。続いて昨年4月にオープンしたネオパーサ清水のショップに今年登場したのが、富士山をモチーフとしたアイテムだ。トートバッグ、カップ、Tシャツなどにプリントされた富士山のマークは、どこか懐かしさを感じるポップなデザイン。「実はこのマーク、ピンバッジとしてデザインしたものです」と話すのは、サン・アドデザイナー藤田佳子さん。オープン時の限定グッズとして、旅をテーマにピンバッジを制作。このお店ならではのバッジにしたいと考え、富士山と高速道路、UAのショップをモチーフにデザインした。
今年7月に富士山が世界遺産に登録されたことを機に、清水店でオリジナルグッズを発売することになり、ピンバッジのデザインに英文コピーを加えた。そして“旅行のお土産”を意識したレトロな配色にし、「UAのファッション性を感じる富士山グッズ」(同アートディレクター 小島潤一さん)を目指した。発売後、富士山への注目度の高まりとともに、好調な売れ行きを示している。