クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第57回目は日本仕事百貨のナカムラ ケンタさんが登場。自身の仕事や人生に影響を受けた本について聞いた。
『ライ麦畑でつかまえて』
J.D.サリンジャー(著)(白水社)
ぼくはホールデンのような子どもでした。思ったことは口に出して行動して後悔もしていましたし、できれば大人になりたくありませんでした。ただ、30歳を超えて思うことは、大人ってそんなに悪いものじゃないということ。むしろライ麦畑のキャッチャーみたいな仕事ができているかもしれません。それは子どもの妄想なんかじゃなくて、現実に必要とされているし、未来にはもっと必要になると思うんです。
『自分の仕事をつくる』
西村佳哲(著)(筑摩書房)
不思議な本です。何度も読みましたが、そのたびに新しい発見があります。それはなぜなんでしょう。西村さんのワークショップに参加すると、そのヒントがありました。まず一冊の真っ白なノートを手渡されます。見開きで左のページに話を聞いていて気になった言葉を書き、右にその言葉を聞いて自分の中から生まれた言葉を書くというもの。そして大切なことは右のページにあると言うのです。この本にもページの下には広い余白が広がっています。これはどうやら「右のページ」と同じ役割があるらしい。あるとき、こんなことも言っていました。交通の激しい道路でおばあさんが道を渡ろうとしている。手伝うかどうか。手伝うことが親切なようだけれども、人によっては自分のタイミングで渡ろうとする機会を奪うことになるかもしれないと。仕事に関する本って、答えをわかりやすく説明するものが多いように感じます。これでもか!というくらいに論理的にわかりやすく。でも答えを見せてしまうことがいいとは限らないし、それが相手にとって答えとも限らないわけです。この本は自分の言葉に出会えるような時間を提供しているのかもしれません。