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感じるブックジャケット

女性のクラッチバッグをイメージしたブックカバー

小野勇介(博報堂)

電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。さまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックカバーを提案していく。

01 ブックカバーの使用例

外で持ち歩く姿をイメージ

キルティングのようなステッチとひし形のエンボスが、紙からレザーや布の質感を感じさせる。今回のブックカバーは、本をクラッチバッグに見立て、外で本を持ち歩くときにファッションとして成立するようデザインされている。

「街中でキレイな女の人が本を持って歩いていたのを、偶然見かけたのが発想のきっかけです」と、博報堂のアートディレクター 小野勇介さんは話す。「本をしまわず、あえて手に持つ様子が、所作として美しくて。そこから、持ち歩くファッションとしてのブックカバーもあっていいのではないか?と考えました」。読んでいない時間も成立するデザインであり、本との接し方のデザインでもある。

クラッチバッグのように見せるために重要な役割を果たしているのが、紙の種類とエンボスの加工技術だ。紙は、細かい斜めの格子柄が生地をイメージさせるエンボスペーパー「タッセルGA」をセレクト。エンボスペーパーの上にさらにエンボス加工を重ねて質感を強調している。

ステッチに囲まれたひし形部分のふくらみは、細長すぎると十分な高さが出ないため、ひし形を当初より正方形に近づけて調整した。ステッチは、縫い目を2重にすることで、ふくらんだ部分との高低差をつくりだしている。ふくらみの丸みは、鋭角に近いと金属のような印象を与えてしまうため、レザーや布のようなやわらかみが出るよう、エンボスの金型の傾斜を緩やかなラウンドに調整するなど、細かな調整を幾度も重ねている。

「紙、グラフィックデザイン、加工の3つのいずれが欠けても成立しない、3者の化学反応によるデザインでした」と小野さんは振り返る。グラフィックデザインの領域は平面に限らない。プロダクトにより近い3Dの領域にも拡張できることを今回のデザインは示している。

02 WWDマガジン「流行通信MASH」

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おの・ゆうすけ
1979年兵庫県生まれ。2002年金沢美術工芸大学卒業後、博報堂入社。カンヌライオンズ ゴールド、JAGDA新人賞、D&AD、NYADC、ロンドン国際広告賞、スパイクスアジアなど受賞多数。2011年より、WWDマガジンにて「流行通信MASH」を連載中。

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