競合他社にシェアを奪われ、ここ数年、苦戦を強いられてきた歯ブラシブランド「リーチ」。ブランド再生を賭け、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、部門を越えたワークショップを実施。新たなタグラインを策定した。決定事項を「伝達」するのではなく、一緒に生み出してしまえば、込めた思いの純度は保たれる。
01 JWTが考えるブランドの根っこを形成する4要素。それぞれの要素がうまく共鳴しあい、関与するようになるまで、ワークショップは続く。最も重要な「ブランドの信念」は、“独創的かつ普遍的”という絶妙なバランス感覚が求められるが、考える際には「反対する人がいてもいい。それを提案する理由、こんな現状を打破したいから、という気持ちに共感が起きることもあります」とJWTのゼネラル マネージャー市原巧さんは話す。
世界共通定義のないブランド
「ワタシ考える人、アナタ売る人」――。役割分業制はときに、当事者意識を薄れさせてしまう。既成の戦略を各部門に伝えるのではなく、共に生み出す。商品やサービスの競争力を高めるには、各職の担当者が貢献している実感が必要だ。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは昨年来、部門を越え、歯ブラシ「リーチ」のブランド再構築を進めている。先導するのは、同ブランドを含めて統括するマーケティング本部ディレクター 湖東彰彦さんだ。
「リーチ」の登場は約20年前のこと。歯科医師の用いる口内鏡のように曲がったアングルネック、小ぶりのヘッド。その機能性から、かつては歯ブラシ市場で2桁台のシェアを誇っていた。
しかし現在では差別化を果たせなくなり、シェアを奪われている。昨年、米国でブランド売却がなされたこともあり、製品の存在価値は一層あいまいになっていた。
「既存概念を壊す、多様な考え方を求めていました」と振り返る湖東さん。急務となった日本市場での製品の差別化、その拠りどころとなる存在価値の策定。ワークショップに招かれたのは、プロダクトマネージャー、アソシエイト・プロダクトマネージャー、製品開発、市場調査、小売業を顧客とするトレード・マーケティング担当、店頭で消費者向けの施策に携わる営業担当。リーチの広告を手がけるJWTジャパンからも担当チームが加わった。
ワークショップでは、まず湖東さんがリーチの歴史や背景について説明した後、現状分析を実施。ここから次第に議論は熱を帯びていく。リーチは、歯ブラシ市場にイノベーションをもたらし、主流を作ったブランド。その矜持もあってか皆、競合他社と同じ土俵、同じ規模で戦うべきと考えていた。しかし考え直せば、本当に真っ向から戦うべきか、という声も出てくる。
メンバーはさまざまに意見を戦わせた。この過程で湖東さんは「ブランドを立て直せる」と確信した。「通常、ブランド構築に携わらない営業部門から、最も強い参加意識を感じました。すべてのブランドを担う彼らですが、リーチに忸怩たる思いがあることに気づかされました」。