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青山デザイン会議

色のパワーと可能性をひらく

エマニュエル・ムホー×戸恒浩人×松原千春

世の中に存在するさまざまな色。それぞれの色は固有のイメージや物語をその背後に持っている。私たちは色を見て、言葉にならないさまざまな情報や感覚をそこから受け取り、感情を変化させている。色を使うことは、このイメージや感覚をビジュアルに落とし込んで表現することだ。色は言葉にならないから難しい、けれど効果的に使うことができれば、ダイレクトに心に働きかける表現ができるようになる。数値化された色や、配色の理論や技法、色づかいのマニュアルなど、色を言葉化する試みはさまざまあれど、理論化しきれない領域を包含するのが、人が色に魅了される理由ではないだろうか。色づかいに長けたクリエイターは、どのように色と付き合い、色を選び、その豊かな力を引き出しているのか。色をテーマとした建築・デザインを行うフランス人建築家のエマニュエル・ムホーさん、東京スカイツリーの照明デザイナーで、色の力を重視した照明デザインに取り組む戸恒浩人さん、自動車のカラートレンドの予測を行うBASFジャパンでアジアのカラーデザインを統括するチーフカラーデザイナーの松原千春さんの3名が、色がひらくコミュニケーションの可能性について話す。

左から松原千春さん、戸恒浩人さん、エマニュエル・ムホーさん。

東京には、たくさんの色がある

ムホー▶ 最近はさすがに言われなくなりましたが、以前インタビューで、「あなたはフランス人だから、このような色使いをするのでしょう?」と尋ねられることがよくありました。でも、私が色を意識するようになったきっかけは東京です。17年前、私は大学の卒業論文を書くために、ひとり初めて東京にやってきました。目に映る東京の街は、たくさんの色と、大小の建物のレイヤーがあって、まるで、色が立体的に浮かび上がる美しい絵画のようでした。それはグレートーンの街からやってきた私に、大きなエモーションを与えてくれたんです。

戸恒▶ 東京はごちゃごちゃしているとよく言われるけれど、色が多いという見方をすると印象が変わりますね。ヨーロッパの街並みが美しいのは、きちんと秩序があり、統制されているからでしょう。東京は狭い上に人口が多いから、そこまでの余裕がない。でもまったく無秩序なわけでもなく、街ごとのカラーはあるんですよね。歌舞伎町らしい色合いとか、青山っぽい色合いとか。東京は、そういった無秩序な中での調和が存在する面白い場所だと思います。

松原▶ エマニュエルさんは、東京に来てすぐに「住もう」と決意されたそうですね。

ムホー▶ そうですね、池袋の街を歩きながら、着いて2時間もしないうちに住もうと決めて、大学を卒業して2カ月後には東京に移住していました。ただ、住んでみて意外だったのが、街全体はとてもカラフルなのに、新しく作られる建築やプロダク卜には色がなかったことです。モノトーンや、コンクリートのグレーが主流で、どんどんシンプルになっていくイメージでした。

戸恒▶ 照明デザインもそうですが、当時、建築や環境・空間に色は適さないという考え方が主流でしたから。

松原▶ 1996年頃というと、自動車のカラーも、いまのように細分化する前でした。

ムホー▶ それがとてももったいないと思ったんです。日本には昔、寺院の朱や着物など、身近な生活の中にたくさんの素晴らしい色がありました。現在は建築ではなく、看板、ネオン、自販機など、街の中に色があふれている。無数の色が幾重に重なり合い、奥行きを作っています。東京の色との出会いが、かつて私の人生を変えたように、色はとても力のあるものです。東京の街を見て感じたエモーションを、たくさんの人に感じてもらいたいと思い、「色切/shikiri」というコンセプトの基にデザインをしていこうと決めました。色を、二次元的な仕上げに使うのではなく、三次元空間を形作る一番大切な要素としてとらえ、色でつくられ、色でエモーションを与える空間を目指しました。

戸恒▶ すごくわかります。僕は子どもの頃から色に興味がありました。天体観測をして星の色を調べたり、相撲好きの両親の影響もあって、力士の化粧まわしやのぼりを見たりするのが大好きでした。そうして身近な色や伝統色にずっと注目してやってきたので、環境に色がないことに、何となく物足りなさを感じていたんです。だからスカイツリーの照明も、見た人がそれぞれ何かを感じてくれたらと思いながら、LEDで複数の色を使って、「粋」と「雅」の2つのタイプをつくりました。

松原▶ スカイツリーの色のグラデーションは本当に美しいですよね。和の色合いが、未来的な側面を持ちながらも、下町の風景にぴったりだと思います。

戸恒▶ ありがとうございます。これまでランドマークやモニュメントのライトアップというと、多くがバーンときらびやかに照らすものでした。でもスカイツリーは、どちらかというと朧月夜のような、ぼんやり見えるか見えないかのような日本でしか成立しない光のほうが面白いと思ったんです。実は見え方は季節や天候にも左右されて、冬は20キロくらい離れていてもよく見えるんですが、青は水蒸気に吸収されるので、湿度が高いと赤く見えてきます。そうやって自然とのコラボレーションで見え方が変化する点も、日本らしいと自負しています。

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