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広告を「読む」。

くまモンから読む「かわいい」のこと。コピーは「生モノ」、デザインは「生きもの」

山本 高史

広告を読めば、なんかいろいろ見えてくる。例えば「かわいい」のこと。

熊本県 2010年~
アートディレクター 水野学

©2010熊本県くまモン

ぼくの個人事務所(コトバです)には、10数体のベアブリック1000%が無造作に置いてある。恒常的に流通しているものではないので、たまにフィギュアショップやオークションをのぞいては、気に入ったモデルをせっせと買い集めている。なぜかと問われるまでもなく、ベアブリックが好きだからだ。この場を借りて告白するわけではないが、かわいいものが好きである。その理由はと問われれば、今度は返答に困る。「だってかわいいんだもん♡」としか言いようがない。

今回の原稿では、初めてデザインを扱う。ひと口にデザインと言っても、広告のデザイン、ロゴマークやキャラクターなどのグラフィックデザイン、プロダクトやインテリアのデザインなど意匠や造形となって現出しているものの総称であるが、ここでは特に広告まわりのものを指すものとして規定しておきたい。

デザインとコピーはさまざまな状況において隣接しているが(例えばロゴマークとスローガンのように)、その受けとめられ方が明らかに違う。デザインについてはしばしば、「好きだね/そうでもないよ」とか「ピンとくる/こない」とかの曖昧さを残した選択がなされるが、コピーの場合はそうはいかない。コピーが正確にメッセージを伝えようとすればするほど、受け手を「賛成/反対」か「共感/反発」まで追いつめかねない(もちろん「どっちでもいい」や「どうでもいい」もある)。それは何度かここでも書いているように、言葉の「肯定しながらそれ以外を全否定する」という厳格な性格によるものだ。「その他すべてを否定した上での言葉」の受諾の是非に「好き/嫌い」という評価はそぐわない。

「ハワイに来ませんか?」というキャンペーンがあったとして、そのためにロゴマークとスローガンやコピーがつくられたとする。ロゴマークというデザインの評価には好嫌の感情は想定できても、賛否の議論は通例ではない。しかしそこに「夏はハワイだ。」というコピーが添えられていれば、そこに発生するものは多くの場合感情ではなく、賛否を判断する理性である。「賛成して行く/賛成しないから行かない」という広告的な結論はもちろんのこと、「夏はハワイ、とは限らない」という「その他全否定」に対する反発まで覚悟しなければならない。その差は単に「デザインは感性、コピーは理性」という能天気なものでいいのか(いいわけないだろう)。そんな話をしたくて長年の友人に会いに行った。

「くまモン」は2010年生まれ。生みの親であるアートディレクターの水野学さんが、彼について話してくれた。九州新幹線全線開業を見越した熊本県の「くまもとサプライズ」キャンペーンの、言ってみれば「副産物」だった。「もともと依頼されたのは、メッセージにふさわしいマークだった」らしい。でもそれをより強く人の記憶に残すには「『司会者』が必要だと思った」そうだ。そこから …

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