消費者と企業を結ぶ価値観を見つけること
例えばここに「『(数学の)サイン・コサイン』なんて、生きていく上で何の意味もないじゃん」と思っている人たちがいるとします。そんな人にいくら「いいから勉強しなさい!」と言っても心を動かすことはできないでしょう。そこで、「数学は、物事を解決する能力を鍛える学問なんだよ」とか、もしくは「数学って実は映画やゲームよりおもしろいんだぜ!」と、普通とは違う数学の魅力を言えたとしたら、興味のなかった人もふりむかせることができるかもしれません。
こうした「消費者とモノをつなぐ価値の提示」が広告コピーの基本だと思いますが、企業メッセージの場合はさらにこれが難しく、たいていの場合、消費者は、企業の考えていることなんて興味はない。乱暴に例えてみるならば、前述の「数学」がその企業の商品だとしたら、企業メッセージは「数学の先生の自己紹介」のようなものです。生徒にとってはあまり関心のないことで、しかしその言葉次第では、彼らの心を開き、数学そのものも好きにさせるような可能性も秘めているわけです。
企業メッセージに命を吹き込む3つのポイント
企業メッセージの難しさは、もう一つあります。商品コピーに比べると、太くて恒久的な価値を伝えるものである分、「どこかで聞いたことある」言葉になってしまいがちなこと。一つひとつのお話を聞いていくと、感動的な哲学や技術を持っているのに、短い言葉にまとめると、どうもありふれた印象になってしまう。それが企業タグラインをつくるときに、陥りがちなパターンです。
ではどうすれば、そこに命を吹き込むことができるのでしょうか。私が大切だと思うポイントは、
(1)(社会・消費者にとって価値のある)哲学
(2)それを裏づける確かな事実
(3)その企業らしい(チャーミングな)コトバ
の3つです。さらに望ましいのは、短いタグラインやキャッチコピーの他に、ステートメント(ボディコピー)も作成すること。(1)と(2)をすべて短いフレーズに押し込むのは難しいけれど、具体的な言葉で語れるステートメントがあることで、タグラインも自由になっていくからです。
ターゲットに近い言葉で語る
では具体的にはどんなふうに、その言葉をつくっていけばいいのでしょうか。私の場合は、時間と都合の許されるときは、できるだけ企業のトップやさまざまな部署の方々に取材をさせていただくようにしています。なぜなら、整理されていない生の言葉のなかに、その企業オリジナルの個性を見つけるヒントがあるから。メールや資料ではわからない空気を体感することができ、それが最終的に言葉を選ぶ上でのフィルターになるから。さらに言うと「自分たちでつくりあげたフレーズ」という参加意識を持っていただき、総意を得られやすくなる効果もあるかもしれません。
つい最近の仕事で、仙台市にある宮城学院のコピーを依頼されたときのことです。企業メッセージと言いつつ学校のお話なのですが、少子化を迎え、リ・ブランディングを必要としているという意味では、どんな企業よりも真剣にターゲット(生徒や親)に届く言葉を欲している業態なのではないでしょうか。
宮城学院中学校高等学校は、130年の歴史を持つ、当時は東北地方において初めて女子教育を推進してきた女子校です。時代の流れにより、共学を志向する生徒さんが増えてきてしまったこと。加えて昔からの「お嬢様校」のイメージも足かせになり、なんとなく大人しい印象になってしまっていること。そんな経緯から、もう少しアクティブなメッセージを打ち出していきたい、ということだったのですが、その学校にないものを言葉にしても、きっと受験生や親御さん、学内の生徒さんの心に届き、愛されるものにはならないでしょう。そこで、できれば学校を見て取材させていただきたいとお願いし、快諾いただきました。
宮城学院は自然に囲まれた広々とした校舎で …