データ活用とオウンドメディア・ソーシャルメディア活用を中心に企業のデジタルマーケティング全般を支援しているアイ・エム・ジェイ(IMJ)。近年は企業のデータ活用の支援体制を強化している。2015年はこれらをどう開花させるのか。1月から取締役COOとして全社的なアプローチの変革を主導する加藤圭介氏に聞いた。
企業の課題はより複雑化
パートナーの役割も変わる
デジタルマーケティングを取り巻く市場環境について、2015年1月1日付でIMJのCOO(最高執行責任者)に就任する加藤圭介取締役は、「デジタル戦略と経営戦略の距離が以前にも増して近くなってきた」と話す。デジタルのインフラをもとに詳細な“個”客データを取得できる環境が整い、「今後数年のうちに、どんな企業にとってもデジタル抜きのマーケティングは考えられなくなるだろう」と予測する。
生活者が「個」としての自己実現を求め、行動や考え方が多様化するなか、「マーケティングの視点がプロダクトありきの考え方から顧客起点へとシフトしている。企業にとってはワン・トゥ・ワンのコミュニケーション、すなわち“個客マーケティング”が必要になってきた」。顧客は、Webサイトに限らず、リアル店舗やコールセンターなど、ひとりで複数のタッチポイントと接する。「それを全てつないで見ていかなければ、真の意味で顧客を理解することはできない」。
実際にIMJのクライアントにも、これまで縦割りの組織で仕事をしていたデジタルマーケティングの担当者が、デジタルチャネルで収集されるデータだけでなく、リアル店舗で収集されるPOSデータも含めて顧客分析に利用し、デジタルチャネルの最適化を図るなど、顧客接点を横断的に捉えてカスタマージャーニーを理解しようとする動きが出てきているという。
「我々がクライアントから求められる解決すべき課題は、年々レベルが上がってきている」。これまでのようなWebサイトにおけるユーザビリティなどの課題解決に加え、昨今ではデータをどのように活用すればよりビジネスの成果が上がるのか、いかにPDCAサイクルをスピーディに回していくかといった、マーケティング上の課題解決を求められる案件が増えてきた。
そうした課題を解決するには、「クライアントのビジネスや業務オペレーションはもちろん、KPIや保有するデータについても共有させていただいたうえで、最適化のご支援をしなければならない」。相談内容が多様化・複雑化して、解決には今まで以上に高いスキルが求められる。「クライアントのビジネスにも大きな影響を与える、より高い次元での課題解決やスピード感も求められるため、これまで以上にオンサイト型(客先常駐型)での課題解決などクライアントのすぐ横で支援させていただくケースが増えるだろう」。
クライアントにより深くコミットするため、関係構築も重要になる。元々クライアントにスタッフを常駐させるなど、きめ細かな対応を得意としてきたIMJだが、「クライアントと同じゴールを共有し、同じ釜の飯を食うような付き合いができるかどうかがポイント。受発注の関係から真のマーケティングパートナーの関係に移行できれば、より高い価値提供ができる」。
“個”客データとの融合でクリエイティブはさらに輝く
IMJはここ数年、「データドリブンマーケティング」の支援体制を拡充させてきた。この部門をこれまで率いてきたのが加藤氏だ。既存の強みであるクリエイティブと合わせることで、クライアントのデジタルマーケティングをこれまで以上に強力にサポートする基盤を整えている。
データやデジタルテクノロジーを効果的にマーケティングに活用するにはどうすべきなのか。「個客マーケティングとは“おもてなし”のコミュニケーションをつくること」と、加藤氏。「求められる要素は2つある」と言う。
ひとつは「顧客の深い理解」で、もうひとつは「リアルタイム性」、つまりクイックレスポンスだ。マーケティングコミュニケーション設計の起点はインサイトの発見、これにデータを活用してこれまで以上に深い顧客理解が可能になる。また、顧客が欲しいと思った瞬間にオファーしてあげることが重要で、これはデジタルテクノロジーを活用して可能になる。これら2つの要素を実現できれば、おもてなしのレベルにも大きな差が開くことになる。いい成果を得るためには組織横断的なデータ活用が必要で、経営層のコミットメントが不可欠だ。経営層を納得させるためのキーワードは、「スモールサクセス」。「小さな成功でいいので、データ活用による改善結果を定量的に示して、段階的に理解を促していく」のだ。
一方で、「データは万能薬ではない」とクギを刺す。たしかにデータを活用すれば顧客インサイトの深いところまで捉えることができる。また、デジタルテクノロジーを活用してリアルタイムで顧客とのコミュニケーションが可能になる。だが、「最終的に人の心を動かすためにはクリエイティブの力は欠かせない」。
これまでクリエイティブの制作は経験や勘のもとに行われてきた部分が大きかった。「そこにデータを合わせれば、クリエイティブ力は格段とパワーアップする」。その結果、デジタルチャネルはもとより、オフラインチャネルも含めた「おもてなしコミュニケーション」、つまり顧客の体験価値向上が実現でき、それが企業のビジネス成果につながっていくのである。
加藤氏は、「これまでは広告を中心に活用されてきたDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)だが、今後CRMや商品開発、営業現場などでも活用され始めるだろう」と考えている。データの活用についても、従来のように分析専門部門が事業部門をサポートするスタイルから、一部の企業においては事業部門担当者が自らデータ分析して、「現場のメンバーがデータを見て、即時改善していくスタイルに移行していくだろう」。その方が圧倒的に改善スピードが早いからだ。
IMJ自身も「データとクリエイティブをどのように融合して両輪を回していくかがテーマになる」。データドリブンのエッセンスを入れ、従来からの強みであるクリエイティブをさらに強化することで、クライアントが確実にビジネス成果を出せるように支援を行っていく考えだ。
アイ・エム・ジェイ 取締役COO 加藤圭介氏(かとう・けいすけ)1999年文化放送ブレーン入社。採用広告の営業、新規事業開発などの経験を経て、2001年アイ・エム・ジェイに入社。Webプロデューサーとして数多くの大規模サイト構築を経験し、2006年にMarketing & Technology Labs(MTL)を社内に設立。多業種にわたるクライアントのデータドリブンマーケティングを支援し、同社の中核事業のひとつに成長させた。 |