広告のメッセージを深掘りすると見えてくる社会の問題 「歴史」というオブラートで包み、新たな視点を読者に与える
『童の神』『八本目の槍』や直木賞受賞作品『塞王の楯』などの作品で人気の歴史小説家、今村翔吾さん。2021年から書店経営も行い、2024年4月には、シェア型書店「ほんまる」もオープンした。「広告はネタの宝庫」として着想を得ることもあると言い、自らも広告を手掛けてみたいと話す今村さんに、広告のクリエイティブに期待することについて聞いた。
私の広告観
「マンガ家」という肩書きを持っているが、その活動を見れば、マルチクリエイターである。「コップのフチ子」を大ヒットさせたかと思えば、「サウナ大使」に任命されたり、趣味の「水草水槽」の普及にいそしんだり。全方位に独自のアンテナをはりめぐらせているように見えるが、この3つ、実は根底でつながっている…のかどうか。
マンガ家 タナカカツキ(たなか・かつき)
1966年大阪生まれ。1985年マンガ家デビュー。映像作家、アーティストとしても幅広く活躍。著書に『オッス!トン子ちゃん』『バカドリル』(天久聖一との共著)、『サ道』『水草水槽のせかい すばらしきインドア大自然』『部屋へ!』など。2014年10月に新刊『みんなの太陽の塔』発売予定。
タナカさんが原案の「コップのフチ子」は650万個の大ヒットを記録した。
©タナカカツキ/KITAN CLUB
たとえタナカカツキさんの名前は知らずとも、「コップのフチ子」と聞けば、イメージが浮かぶ人は多いだろう。2012 年発売の大ヒットカプセルトイ(ガチャガチャ)で、最近では様々な企業のプロモーションも使われるなど、広告コミュニケーションの世界でも活躍中だ。
フチ子のアイデアは、タナカさんが愛してやまない、ある場所で生まれた。「僕は年間300日以上、サウナに通っていて、仕事もほぼサウナでしているんです。カプセルトイメーカーの奇譚クラブさんから新商品アイデアの依頼を受けたときも、サウナに入りながら考えました。脳内で空想のガチャガチャを回し、『あ、これ面白いやん』という案を100個くらい考えて。そこから実現可能性のある10案に絞りこんで提案しました」。
こうして生まれたのがコップのフチ子である。奇譚クラブの企画会議では、「コップのフチに引っかける」という新しいアイデアだったことと、「男女共に受け入れられそう」という2点が商品化の決め手になったという。
カプセルトイ市場では、10万個売れればヒット、20万個以上売れれば大ヒットと言われる。その中で、累計650万個以上というのは規格外のメガヒットである。タナカさん自身は ...