これまで4回の研究報告会を開催。
特殊性は医療に限らず
日本マーケティング学会の活動の中心となっているテーマを絞った研究会「リサーチプロジェクト」。今回は最も専門性の高い医療マーケティング研究会をとりあげる。
医療の問題は、日本国内のみならず、グローバルな観点から見ても、緊急度かつ重要度の高い社会的課題である。この研究プロジェクトの目的は、市場と顧客の問題を取り扱うマーケティング理論の知見を活かし、患者と地域と医療従事者が直面する課題にアプローチすることである。さらに、それら利害関係者の連携による全体最適型の仕組みの創造、すなわち地域における地域連携型イノベーション創出の可能性を探求することを目指す。
関西大学の川上智子教授をプロジェクト・リーダーに、流通科学大学の石井淳蔵学長、川崎医科大学の猶本良夫教授、昭和大学の的場匡亮講師、キャンサースキャンの福吉潤社長、関東労災病院の小西竜太経営戦略室長、飯塚病院の工藤美和副本部長の6人が企画運営メンバーとなり、これまで4回の研究報告会を開催してきた。
第1回目の研究報告会は昨年6月17日、「病院経営とマーケティングの可能性」をテーマに行われた。まず川上智子氏が、医療におけるマーケティング概念の再考をテーマに、STP・患者志向・マーケティングの7Pという3つの概念を紹介した。続いて的場匡亮氏が患者ミックスの重要性を紹介。昭和大学のある病院は、かつて外来患者1日1,000人の計画に対して実際には1,300人が来院していた。そこで地域医療支援病院として紹介を推進し目標を1日1,100人とした。結果として、患者数を減らしても、新規患者と再診患者の患者ミックスが適正なら医療の質も収益も改善できることを報告した。最後に高崎健康福祉大学の木村憲洋准教授は、医療マーケティングの特殊性にふれ、医療サービスはオーダーメイドであり、カルテはCRM、規制業界で、同業他社は競合ではなく顧客を紹介し合う仲であること、広告規制により広報活動としての健康教室や公開講座のような体験型の患者教育が増えていること、病院にとって最も重要なのは医療の質で医療の質が高まればブランド力も高まり結果として収益が向上することなどを紹介した。
続く第2回目は8月25日に「地域連携室を起点とした医療マーケティングを考える」をテーマに岡山市で実施。尾道市立市民病院の山田佐登美副院長(「地域医療の課題」)、猶本良夫氏(「チーム医療によるマーケティング・モデル」)、川崎医科大学の山辻知樹准教授(「ITによる地域連携モデル」)の3人が報告。いずれも現役の医師として病院経営の中枢を担い、かつマネジメントやマーケティングにも精通した先生方で、地域連携の最前線の取り組みを中心に紹介した。
さらに第3回目の研究報告会を12月14日に「医療の経営環境とマーケティングの活用」をテーマに開催。報告者は、的場匡亮氏「病院経営の環境変化とイノベーション」、福吉潤氏「パブリックヘルスにおけるソーシャルマーケティングの活用事例」、小西竜太氏「超高齢化社会における新しい医療サービスの価値」の3人で、各報告は医療分野にマーケティング理論を応用することの可能性をうかがい知ることができる内容の濃いものであった。
加えて第4回目は今年2月8日に「市場や顧客のニーズを実現する病院のあり方」をテーマに福岡県飯塚市の飯塚病院で開催した。
医療は特殊とよく言われるが、業界の特殊性は医療に限ったことではない。グローバルに展開する企業も、ローカルな病院経営もそれぞれ特殊で固有である。特殊性や固有性に還元する隘路に陥らず、広く深いマーケティングの理論体系を医療に適合させ、逆に理論側も修正・拡張していく努力を積み重ねることで実り多い研究プロジェクトとしていきたい。
文/日本マーケティング学会事務局