今年5月にスタートした「ハフィントンポスト日本版」。「ハフィントンポスト」は、2005年にコラムニストのアリアナ・ハフィントン氏が米国で立ち上げたニュースサイトだ。従来のニュースサイトと異なるのがニュース記事の他、有識者のブログ、さらに読者から寄せられるコメントの3点で構成される参加型のコミュニティである点。ローンチから日本版編集長を務める松浦茂樹氏に「ハフィントンポスト日本版」が目指す、新たな言論空間、メディアのあり方について話を聞いた。
――日本版スタートから約半年経過した現在の状況をどう見ているか。
「伝える」ことを目的に、ストレートニュースを発信し続けるニュースサイトと異なり、「ハフィントンポスト」は記事を読んだ読者が「考え」、さらに自ら「発信」してくれる場を目指している。米国では記事に対して月に800万件を超えるコメントの投稿があり、それに比較すれば日本版のコメントの量はまだまだ少ない。コメントを増やす努力も必要だが、考えるきっかけになるというメディアが掲げる理想に対し、その努力はあくまで手段の一つであり、結果に過ぎないとも言える。
日本版では特に団塊ジュニアを中心に意見の発信をしてもらうことを目指しているので、この世代が共感する課題を提示していきたい。日本版の編集部は私を含めてスタッフも皆、団塊ジュニア世代。編集者一人ひとりが持つ課題意識を前に出し、記事を作っている。その課題意識に共感した読者が集まり、意見をしてくれているが、読者からのコメントをもとに、さらに記事を発信し、議論を深めていきたい。
――今のメディア環境をどう見ているか。
それぞれのメディア属性に応じた適正サイズに収斂されていく過渡期にあるのだと思う。具体的には“メディア”というよりテレビ、PC、スマホ、紙というツールに規定される属性によって、その消費のされ方が絞り込まれてきている。例えばテレビで言えば、あらゆる動画を流すメディアではなく、「Hulu」に代表されるオンディマンドビデオサービスが登場する中で、テレビのディスプレイ画面で見るべきものとして残っていくのは、リアルタイム性のあるものになっていくのではないか。ツイッターとの親和性の高さ、ソーシャルテレビという視聴スタイルが登場しているのも、この流れを象徴していると思う。「ハフィントンポスト日本版」でも、自分たちのメディア属性を明確に理解した上で、活動をしていきたいと思っている。
――企業は、「ハフィントンポスト」という場をどのように活用できるのか。
通常の広告枠のほか、私たちならではの提案として、カテゴリースポンサーというメニューがある。現在「VISION2020-ヒトとクルマの安全な社会の実現に向けて」という特集を展開しているが、自動車メーカーのボルボがスポンサーになっている。特集の中で同社開発の「歩行者・サイクリスト検知機能付追突回避・軽減フルオートブレーキシステム」の紹介もしているが、事故を減らしたいと考える自動車メーカーとしてのボルボのCSR活動の側面が強い。考えるきっかけとなる場であるメディア特性から、CSR活動の一環としての情報発信の場としての活用も考えられると思う。
――今後の展開について。
アリアナ・ハフィントンが現在、掲げる「サード・メトリック」(第3の価値観)について日本版でも発信していきたい。お金、権力という従来からある2つの価値観を超える、人生における成功を再定義しようという呼びかけだ。アリアナは読者の声をもとに次なる課題を見つけ、発信。さらにそこで集まった声を基に、例えば「サード・メトリック」でいえば、大手企業の幹部を集めたフォーラムなども開催するなど、具体的なアクションを起こし、読者の声を社会に届けている。日本版でも発信するだけでなく、アクションにつなげるメディアを目指していきたい。
松浦茂樹氏(まつうら・しげき)東京理科大学工学部経営工学卒業後、2008年よりライブドアでポータルサイトの統括、コンデナストで日本版「WIRED」のウェブエディター、グリーで「GREEニュース」等などを担当。2013年3月より現職。 |