今年6月にサイバー・コミュニケーションズ(cci)の代表取締役社長に就任した新澤明男氏。短期的なリターンが強く求められるネット広告市場において、メディアが厳しい環境に置かれていることを危惧。優良メディアが育つ環境づくりへの貢献を経営方針に新たなスタートをきる。
─ネット広告市場の現状をどう見ているか。
バナー広告、ディスプレイ広告など、これまでネット広告は効果を可視化できる点が企業に受け入れられ成長してきた。しかし、それが短期的なリターンに対する過度な期待を生み出し、例えばユーザーとの長期的な関係を維持する装置として有効なソーシャルメディアまで、ファンやフォロワーを集め、集めたファンやフォロワーに短期的な回収を求めるなど、矛盾した環境をつくっているように思う。
さらにDSPをはじめとするアドテクノロジーの浸透で、ネット広告には「枠・メディアから人へ」の流れがある。もちろんターゲティング技術の進化は必要だし、それによって広告活動の効率も向上するが、行き過ぎると良質なオーディエンスを生み出してきたメディアの存在を無視することになりかねない。実際、コンテンツ系メディアは今、とても厳しい状況に置かれている。
さらに、どのメディアもスマホ経由のアクセスが増えているが、現状のスマホ広告はアドネットワーク、さらにクリック保証型が主流。まだ広告主もスマホでの課金収入を目的としたゲームなどのアプリ事業社が多いため、PC以上に短期的な成果を求められる。それゆえ広告の単価がPCより低い水準となっており、ユーザーがスマホに流れれば流れるほど、メディア企業の収益を圧迫することになっている。
─今後の経営方針は。
当社はメディアレップからスタートして18年目。メディアが危機にある今こそ原点回帰をし、メディアの成長そのものに寄与する会社になりたいと考えている。いいメディアがなければ、いいコンテンツも、いいオーディエンスも生まれないし、結果的に広告主の不利益につながる。そこで新たに掲げた経営方針は「The Media GrowthPartner」。私たちが、まずはそれぞれのメディアの価値を理解し、さらに広告会社の方たちにも理解してもらう。そしてマスを含めた統合的なマーケティング活動の中で、有効に機能するような提案をしていきたい。
具体的には、マスとネットに共通する統一の広告指標の確立などが必要と考えている。業界全体に働きかけ、実現していきたいし、これはマーケティング活動の中に、ネットのメディア、ツール、サービスを組み込むことでROIを高めたいと考える広告主のニーズにも合致していると思う。
マス広告の歴史を振り返れば、広告メディア市場は広告主と広告会社がともに育ててきたことがわかる。しかし、例えばフィーチャーフォン広告市場を見ると、結局有力なメディアを育てられないままに終わってしまった。スマホ・タブレットの時代へと移る今、改めて広告主、広告会社とともにいいメディア、サービス、アプリが育つ環境づくりに貢献していきたい。
編集部の視点
広告主がいま現在、求めていることへの対応が、結果的に広告主にマイナスの影響を与えることもある。新澤氏の経営方針は5年、10年先の広告市場を見据えた提言。
新澤明男(にいざわ・あきお)サイバー・コミュニケーションズ 代表取締役社長。ソフトバンクを経て1998年、cci入社。新事業推進本部長、メディア本部長、最高執行責任者(COO)などを経て2010年から代表取締役副社長。2013年6月より現職。 |