メディアの注目を集め、それによって都政への関心を促す。圧倒的な発信力と注目度をバックに「都民ファースト」を推し進める小池百合子・東京都知事が掲げる方針とは。
東京都知事選では「東京大改革宣言」を前面に打ち出しました。国政に携わっていた時にやりたいと思っていたことを盛り込んだものです。その1ページ第1章は「情報公開」です。レディーファーストならぬ、『都民ファースト』の視点で情報を公開すると、色んなことが見えてきます。都民のお金がどのように使われているのか。それがどんなベネフィットをもたらし、将来どんな方向に進んでいくのか……。そうしたことを知ることで、都政への興味が湧いてくるはずです。
東京で暮らす皆さんも、都政についてあまり考えてこなかったのではないでしょうか。今は幸いにも、マスメディアが都政に注目し、ありとあらゆる動きを報道してくれます。ネットにも様々な情報が日々出ています。こうしたニュースを見て、改めて都政について考えるようになった方もいらっしゃるでしょう。こんなに無駄遣いをしていたのかと驚いたり、安全面は大丈夫かと心配したり……。その意味では、扉をひとつ開けることができたかなと思っています。
東京が目指す「3つのシティ」
2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会に期待していただくことも、そうした都政への関心の延長線上にあると考えています。
人口動態で見ると、団塊世代すべてが後期高齢者(75歳以上)になる節目が2025年です。東京大会はその5年前に開催されます。私の設計図では、東京大会はパラリンピックに比重を置くつもりでいます。東京のレガシー(遺産)づくりになると考えているからです。
ひとつの会場の後利用によるレガシーはどれくらいあるのか。今、各メディアも分析をしています。都民が暮らす「東京」という街そのものが会場と考えると、大会後にどんなレガシーを残すことができるのか。そう考えた時に、今私が唱えている「3つのシティ」の考え方に行き着きました。それは、『もっと安心、もっと安全、もっと元気な首都・東京』を実現する「セーフシティ」。『女性も男性も、子どももシニアも、障害者も、いきいき生活できる、活躍できる都市・東京』を実現する「ダイバーシティ」。そして、将来を見据え、『世界に開かれた、環境・金融先進都市・東京』を実現する「スマートシティ」です。
東京には色々な大型施設がある一方で、小さな施設も数多くあります。例えばトイレひとつとっても、和式トイレでは、しゃがむことが難しい高齢者には使用できません。これは洋式にしていく必要があります。
学校は、災害時の避難場所として、最後の拠り所となります。ところが、トイレが子ども用の和式となると、使えない方がたくさん出てくる可能性があります。また、避難者で人数が急激に膨らむので、トイレの数も足りなくなるでしょう。こうした、きわめて基本的なことから見直すことが必要だろうと思います。
障害者用トイレは、「だれでもトイレ」というネーミングになっています。広いスペースで使いやすいので、誰もが便利に使っているようです。その一方で、障害のある方がいざ入ろうと思った時には使えないということが起こり得ます。
ネーミングひとつとっても、そういうことになります。「クールビズ」も、最初はみんなバカにしていましたけど、「ああ、そうか」という気づきにつながり、お金をかけずに大きな効果を生みました。都民ファーストで、あまりお金をかけずに効果のあることをやる。それが「賢い支出」につながると思っています。
「当たり前」を疑うことから
時代も変わっていますし、従来の都政とは違ったやり方が必要だと考えています。例えば、ダイバーシティや女性の活躍についてみんな口に出すけれど、遅々として進んでいませんし、「子育て支援が……」と言いながら、少子化も止まらない。ここはパラダイムシフトが必要です。
私は、これまで皆さんが当たり前に思っていることについて「本当だろうか」「なぜ、皆こんなことを我慢しているのだろう?」と疑います。政策には必ず大義が必要です。しかし、繰り返し意義を述べたり、ただ予算をつけたりしても効果を生みません。やはり、人々の共感を呼ぶような「知恵」を出し、「工夫」することが必要です。そうすれば、少ない予算でも、その何倍も大きな効果が期待できます。
「世の中を変えるのは、若者・ばか者・よそ者だ」という言葉があります。スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業生へのメッセージで、「Stay hungry、 stay foolish(ハングリーであれ、ばか者であれ)」という言葉を贈りました。
私は今、オリンピックをはじめ、これまで決めてきたことに色々と異議を唱えています。それは、日本人のあきらめの早さに対して、「本当にそれでいいのですか?」と問うているのです。オリンピックの調査チームが報告をしてきますが、「もうこれで決まっちゃったよね」と、みんなすぐにあきらめてしまいます。そこであえて、これまでのことを一気に覆すようなことをやっているわけです。それはもう、今まで苦労された方々には大迷惑なことだろうと思います。
しかし、世の中を変えてきたのは、こういうフーリッシュ(ばか者)な人間だったのではないでしょうか。少々批判されても、覚悟を決めているので構わないと思っています。
東京に埋もれた「宝」を探す
岩手県の伝統工芸の南部鉄瓶は、跡継ぎがいなくなり、伝統の継承が危ぶまれていましたが、色をピンクに変えたとたん、世界中で売れるようになりました。最近では抹茶色が人気で、大変よく売れていると聞きます。
伝統から外れたことをしたら世界が変わったわけです。もちろん善しあしはあるでしょう。しかし、そのもの本体が廃れてしまえば、どうなるでしょう。ピンクを批判している暇があったら、どうやって伝統を承継させるのか、考えた方がいいと思いませんか?
今、私は東京の宝物探しをしています。東京にずっと住んでいると、宝物があることに気づかなくなります。例えば、東京のお神輿ひとつとってみても、格好いいですよ。一例ですが、オリンピックなりパラリンピックの開会式とか閉会式で、東京中のお神輿が会場になだれ込んだら面白いでしょうね。
例えば、日本橋にある老舗の中には、非常に古くからの染色があります。ほかにも、切子ガラスや組みひもなど、江戸文化がベースとなっているものが色々あります。こうしたものは、あまりにも日常的なものなので、意外と宝物だとは気づかないことがあります。ぜひ、皆さんにも隠れた宝物探しにご協力いただきたいですね。(談)
東京が目指す「3つのシティ」 | |
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セーフシティ | 住宅の耐震化など災害対策や都市防災力の向上を目指す |
ダイバーシティ | 働き方改革や高齢者・障害者が暮らしやすい街づくりを目指す |
スマートシティ | 環境先進都市、国際金融都市づくりに取り組む |