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広報担当者の事件簿

記者の「飛ばし」に広報はどう対処するべきか?

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    アオイ食品、中期経営計画発表〈後編〉

    前編「事前リークを強いる悪質メディアにどう接すべきか」はこちら

    【あらすじ】
    中期経営計画の発表を翌日に控えた夜、「アオイ食品」広報課長の野口康太の携帯に、営業部長の小出久人から着信が入った。小出は副社長の染谷裕士が、懇意にする東京経済新聞(東経)の記者・福田亮二に、電話で「何か」を漏らしたのを目撃したらしい。一体、何のネタが漏れたのか─。眠れぬ夜を過ごした野口が翌日、東経の朝刊で見たものは、予想外の記事だった─。

    記事の真偽は

    『記者発表後、その場で御社記者から弊社の社長に対する「翌日の取材要請」がありましたが、広報課より「取材が可能か否かを含め明日連絡するので、待ってくれ」という回答を行いました。それにもかかわらず、翌日の早朝、御社記者は弊社社長宅を訪問し、会社に出勤するため玄関を出てきたところを待ち構え、強行に取材しようとしたようです。

    なぜ、そのような行動をとったのか弊社には理解しかねる。早朝の取材活動が不調に終わると、今度は広報課に対し電話がありましたが、その内容が「今日中に何とか社長に会わせてくれ」の一点張りでした。

    〈中略〉

    国民に情報を伝達することが報道機関の役割であることは弊社としては十分認識していますが、正確さが欠けていてはまったく意味を成さないのではないでしょうか。

    各社の取材要請については広報課が窓口となり責任を持って対応しており、御社の「ルール」を無視したやり方まで社会が許容しているとは到底思えません。

    御社が今後もこのような方法で取材活動を継続されるのであれば、弊社としては取材等の協力は一切行わないという強い覚悟であることをご了知いただきたい』。

    誰もいなくなったフロアで一人、パソコンに向かって抗議文を作成していた。

    「フゥーー」いつもより大袈裟に息を吐く。長い一日だった。夜11時。周囲のビルは漆黒の闇に包まれている。背伸びをしながら窓ガラス越しに外へ目を向けると自分の姿しか映っていないことに気付く。NHKのニュースで伝えられ、通信社の配信記事が流れて一息ついたのが2時間前だった。時間の感覚が麻痺してしまうほど電話で声を張り上げていたのが、何日も前だったかのように感じてしまう。虚脱感が全身を覆っている─。

    プラン2019中期経営計画の発表を翌日に控えた夜、地下鉄のホームで電車を待っていたとき、懐に入れている野口康太の携帯電話が震えた。通話ボタンを押すと声の主は営業部長の小出久人だった。嫌な予感がする。

    「お疲れ様。今、話せるか」
    「ちょっと待ってください」
    と言いながら、電車を待つ列を離れ、壁際に向かう。
    「副社長から何か聞いていないか」。

    「……いえ、何も」。
    発表を明日に控えたこのタイミングで? 心がざわついてくる。

    「そうか、ならいいんだが」
    「明日の発表のことで何か」
    「……実はな。副社長からは黙っておけと言われているんだが。一昨日の全体会議が終わった後に、副社長と2人でちょっと食事をして帰っただろ」。

    「飲みに行ったんでしょ」。“食事”などと綺麗な言い回しをするなと毒づく。会社の金で飲みたかっただけだろ。野口の言葉が聞こえなかったかのように小出が続ける。

    「その時にな。東京経済新聞の福田とかいう記者が副社長に電話をかけてきたんだ」
    「携帯にですか?」と言うと、そうだと電話の向こうで小出が首肯するのが分かった。

    3年前のことが野口の脳裏を過る。副社長の染谷裕士と福田亮二。福田が染谷を懐柔したことは容易に想像はつくが、一体何を話したのか……。

    「内容は聞いていないんですか?」
    「ああ。電話がかかってきた途端に外に出ていった。戻ってきたのは10分後だ」。
    覚悟すべきだろうか。

    「なあ野口。中計のこともミャンマーのことも、福田って記者に落とされたんじゃないか」。日頃は …

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