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未来を創る広報

理念の相互理解を促す、広報戦略の立案と実行

小早川護(北海道大学名誉教授/日本広報学会理事長)

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自社・組織の理念を体現するためには、広報・コミュニケーション活動を「戦略」にしていくことが欠かせない。経営戦略を理解しつつ、計画立案から実行、評価に至るプロセスを回していくためのポイントをまとめた。

広報戦略の基本フレーム

広報戦略は、基本的に経営戦略に従うもので、組織全体の経営戦略体系に大きく影響を受ける。主には広報部門が中心となってその部門の戦略を策定することが多いが、前述の全社的視野を踏まえ、さらには全社経営戦略への影響をも想定しつつ、組織全体としての「広報機能」をどのようにつくり、運営するかという視点で策定されなければならない。

戦略の内容としては、以下の4項目が挙げられる。より良い関係性構築・維持・発展に向けての活動((1)~(3))と、効果的・効率的に広報の目的を果たすための人的・組織的・制度的基盤をつくり上げていく活動(4)とがある。

〈広報戦略の内容〉

(1)コーポレートとしてのレピュテーションの確立、理解/認知の向上など、全社的な広報課題からスタートし、それらに対応する広報戦略。

(2)ステークホルダー別の「よりよい関係性構築、そしてレピュテーション向上へ」という課題からスタートし、それらを確立することに対応する広報戦略。広報部門としてのメディアリレーションズのほか、人事・総務部門でのインターナル・コミュニケーションや採用コミュニケーション、広報、財務部門では投資家向けの広報(IR)などである。

(3)個々の事業部門ごとに課題からスタートし、それらに対応する広報戦略。

(4)経営体としての広報力・危機管理能力拡充に向けた広報基盤戦略。

特に全社広報部門としては(1)、(2)、(4)の戦略策定および推進、(3)については事業部門の広報担当が中心となり、全社広報部門と連携しながら策定・推進していくこととなる。

広報戦略の立案と評価

図1 広報課題に対応するマネジメントプロセス
『体系 パブリック・リレーションズ』(スコット・M・カトリップ、アレン・H・センター、グレン・M・ブルーム著、ピアソンエデュケーション刊)より抜粋

特定の広報課題に対応するマネジメントプロセスを、スコット・M・カトリップが著書『体系 パブリック・リレーションズ』中で、図1のように表現している。広報関連の著書ではしばしば引用される図であり、標準的な表現である

このプロジェクト戦略策定・推進のステップは、一般のマネジメントプロセスと同様である。

1.状況分析(問題・機会・課題の明確化)

第1のステップは、全社、事業部門の戦略策定プロセスを経て問題・機会・課題として認識されているものに対して、それを詳細に調査・分析するフェーズとなる。関連するステークホルダーの意見・行動・理解度などを調査し、どのような変革が求められるかを明確にするステップである。典型的には2つの性格のものがある。よりよい関係を構築するための前向きな課題か、それとも組織体との不都合な関係を解消する、潜在的のものも含めての問題解決のための課題か、である。

2.戦略(計画立案とプログラムの作成)

第2のステップでは、第1のステップで明らかになった課題、関連するステークホルダーの状況から、将来像とのギャップ解消に向け「戦略機会を活かすための方策」、あるいは「脅威を排除するための方策」を明らかにすることである。

「戦略機会」とは、例えば組織体が強みを持つ事業の成長にとって有利な政策が展開され、事業の拡大が生まれようとする場合、その領域での名声を早期に確立し、組織としての先進性をアピールする方策である。「脅威あるいは問題解決のための戦略」とは、製品のリコール問題や不正経理などで、名誉を毀損する可能性が出てきている場合の対応策である。

3. 実施(実施とコミュニケーション活動)

第3のステップは、第1のステップで明らかになった課題への対応に向け、具体的な目的を達成するために、第2のステップで策定したプログラムを実践することである。

この中で、しばしば重要性が指摘されることとして、コミュニケーション活動と、そのコミュニケーションに関連する経営行動をしっかりと調整して進めることがある。ブランディング・マネジメントで強調される情報発信や人、製品・サービス、施設など、すべてのブランドの接点における一貫性の確保である。コミュニケーション活動内での一貫性を保つことも重要であり、特に近年ではSNS上での口コミ情報との一貫性をも保てるように、経営活動全体にわたっての管理が求められる。このことは、広報マネジメントにおいてしばしば強調される形で表現するならば「ワンボイス・ワンメッセージ」の確保である。

各種メディアを通して発信される言語的メッセージは、当該プロジェクトがターゲットとするステークホルダーが、そのメッセージが具現化された実際の経営行動を体験することにより、信頼性を持って受け止められる。その逆が起こるということは、当該プロジェクトに限らず、すべての広報活動の信頼性を毀損することにつながりかねない。

4. 評価

第4のステップはプロジェクトにおけるプログラムの評価である。従前には、広報の成果は測定不可能という考え方さえ存在したが、状況は変わっている。経営環境が厳しくなっていることと同時に、評価についてはインターネットの情報量増大や幅広いデータ収集が可能となり、情報環境が豊かになるに従って、評価に関連する様々な方法が可能になってきていることもあり、プログラムの効果の評価が以前にもまして求められるようになっている。

評価すること自体は、当該プロジェクトにおいてそのプログラムに投下した資本・エネルギーの効果を高め効率化を図るため、プロジェクトの究極的な目的が達成されたかを判断するためにも重要である。経営にとっては、成果が出ていない活動に予算を配分するわけにはいかない。評価することは、当該プロジェクトや実践されたプログラム自体のためだけではなく、その後の新たなプログラムに関連しての学びのためにも必要である。

図2 パブリックリレーションズの評価のレベル
『体系 パブリック・リレーションズ』(スコット・M・カトリップ、アレン・H・センター、グレン・M・ブルーム著、ピアソンエデュケーション刊)より抜粋

図2に示すようにカトリップらは評価について準備、実施、効果と計13の段階に分け、目的達成に向けてのレベルを示している。

こうした評価をプロジェクトの中に組み込んでいくことは、大きくは経営におけるミッション、ビジョンさらには事業目標設定と同様に重要だ。そのプロジェクトに関与するメンバーが同じ方向に向けて予算とマンパワーを投入するように仕向け、その進捗を確認する上で肝要となる。重要な作業であるからこそ評価をプロジェクトの中に組み込み、それをいかに活用していくかを配慮すべきだ。プロジェクトの早い段階で、経営トップから関与するスタッフ全体にわたり、充分な理解がなされるように進めていかなければならない。

広報・PR活動の戦略強化へ

「戦略的に」という言葉には様々な意味があり、経営体によって異なる。一応、その定義を「組織の存在目的に従い、より効果的に様々な経営方策を実践すること」として、説明を進める。

一般の経営戦略と同様ではあるが、一貫性ある戦略の基本的要件として次の10点を挙げておきたい。

《戦略の一貫性》

1.組織の存在目的に沿った方策であること(経営と広報との有機的連携)

2.組織内での戦略的動きに一貫性があること(部門間の一貫性)

3.各種の広報戦略について一貫性があること(広報活動としての一貫性)

4.広報戦略に時間軸上の一貫性があること

《環境適応性》

5.外部環境変化(将来的変化も含め)に適応する

6.内部環境変化(将来的変化も含め)に適応する

《戦略の有効性を高めるために》

7.戦略を分散させず、優先順位をつける

8.防衛力を固めつつも能動性を持つ

9.タイミングを重視し、適宜かつ迅速に展開する

10.広報部門のみならず、経営体全体としての広報力学習・育成戦略を組み込む

北海道大学名誉教授/日本広報学会理事長
小早川 護(こばやかわ・まもる)

大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。野村総合研究所に入社後、米カリフォルニア大学でMBA取得。総合研究本部長、常務取締役、研究理事を経て、2000年から北海道大学大学院国際広報メディア研究科教授。2009年から名誉教授。2012年から事業構想大学院大学教授。2017年社会情報大学院大学教授・研究科長に就任予定。

日本初、広報・情報の専門大学院が2017年4月に開学します。

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